実例で学ぶSOAP記録の知るべき4要素と代表的な2つの記載例
患者さんに立案された看護問題について、看護師が情報収集、アセスメントした結果を記録する形の一つがSOAPになります。
まず、SOAPの意味は主観的情報のS、客観的情報のO、アセスメントのA、計画のPに分類されています。
最も大事なことは看護師自身の主観をいれず、事実だけを書くことが重要です。
そして、看護師としてSOAPで記録をしていることは法的文書となり、自分が何を考えて何をしたかを証明する文書にもなります。ケースは少ないですが、医療訴訟などに発展した場合、看護師自身を守る一つの武器が看護記録になり、きっちり書けていないと意味をなさなくなってしまいます。
SOAP記録は、Sから順に記載する方法とAから記載する方法の2つが主にあります。看護師自身やりやすい方法を自分のアセスメント力と勘案して選択するのも、スムーズに書けるポイントになります。
ケアの根拠になるSOAP記録を書けることは、今後の看護師として働くうえでキーになりますので、書き方や方法を是非学んでいきましょう。
1 SOAPとは?SOAPを構成する4つの要素
患者さんに立案された看護問題について、看護師が情報収集、アセスメントした結果を記録する形の一つがSOAPになります。まず、SOAPの意味は、主観的情報のS、客観的情報のO、アセスメントのA、計画のPに分類されています。
現在の医療現場で看護記録は、「問題志向型システム(POS:Problem Oriented System)」です。
「問題志向型システム(POS)」とは、治療の軸を患者さんの持つ「問題」とし、その問題に沿って治療や看護展開がされていく治療過程のことです。看護記録のSOAPは、この「問題志向型システム(POS)」をベースにしています。
つまりSOAPとは、患者の問題にフォーカスした看護師の記録ともいえます。まずは一つずつ分解していきましょう。
1-1 主観的情報の「S」は主に患者さんが話したこと
最初に記載する情報の「S」は主観的情報になります。主には患者さんが訴えていることになります。例えば、開腹手術後の患者さんで想定し、術後の訴えで「痛みが強いので眠れそうにありません」とお腹周囲を指して話したとします。その際のSは、「痛みが強いので眠れそうにありません」がSになります。
ちなみにSOAPにおけるS情報とは、患者さんが話した言葉以外にも、筆談や手話などの非言語コミュニケーションも含まれます。
看護の対象は患者の家族も含まれるので、療養に関係することであれば患者家族の訴えもS情報に含まれます。
1-2 客観的情報の「O」は看護師として看たそのままの情報
「O」は看護師として見たことや触れたこと、データなどを含めた客観的情報になります。患者さんの訴えたS以外で、見たり聞いたりした情報がすべてになります。例えば以下が客観的情報になります。
- 苦悶表情あり
- お腹周囲を抑えているが出血はなし
- G音は著明
- KT:36.5、BP:142/72、P:112、SPO2:98%
- ドレーン内の出血は褐色
とにかく見たもの、触れたもの、測定した者等患者さんが訴えた以外のことを端的にあげていくの重要です。そしてポイントは、考えられる問題に関する情報を選んで記載できているかになります。これが慣れないと難しくなります。
全ての情報を記載するのではなく、考えられる問題に関連する情報取捨選択する必要があります。
沢山の情報をあれこれ書くと、問題がわかりにくくなったり、間違える要因になります。はたまた、上司含めた先輩に「なんでこんなこと書いたの?」と指導される要因になります。
患者さんの看護問題がわかってないままO情報を書こうとすると、情報のまとが絞りきれず無駄な情報のオンパレードになったりします。
例えば、痛みの訴えや合併症のリスクを考えているのに、「家族が心配そうにしている」「点滴の漏れなし」などは不要になります。そのため、O情報を描くときは情報に統一性を持たせるためにも、看護問題をある程度頭に描けた状態で書くようにするほうがスムーズに書くことができます。
1-3 アセスメントの「A」は思考過程をまとめ
Aはアセスメントになりますが、とにかく思考過程をまとめることになります。患者さんからの訴えと、訴え以外の看護師自身が得た情報を元に、何が問題だと考えたのか、そして問題がないとしたら、なぜそのように思うかがアセスメントになります。このアセスメントが、看護師として最も大事になり、日々の業務でもアセスメントを考えて仕事をすることが必要になります。
看護に答えはあることは少ないですが、アセスメントをきっちりすることが患者さんの安全を守れる思考があると言えます。すなわち、患者さんのことを理解して、問題の有無を考えて看護師として働いている証拠が、アセスメントであり、それを残すのがSOAP記録になります。
今回のケースのアセスメントでは、
「Aさんの訴えは痛みがあるため、術後の合併症の恐れがあると考えられた。しかし、ドレーン内の性状の問題はなく、出血や発熱や呼吸状態の変化はなし。脈拍のみがあがっている状況であるため、疼痛コントロール不良が考えられるため、疼痛時の指示であるボルタレンSP60㎎を施行し、経過観察とする」
となります。
この際に気を付けるのは「~だと思われる」などの主観が入るのはNGになります。書くなら「だと考えられる」「~の可能性がある」と主観的情報と、客観的情報から看護師としてのアセスメントが必要になります。
1-4 計画の「P」は具体的な内容
アセスメントの結果からこの患者さんに必要なケアを記載します。安楽肢位への体位変換や疼痛コントロール、2時間ごとのバイタルサインとドレーン性状の確認などが今回は挙げられます。看護師として自分が行うべき、具体的な内容を記載するようにしましょう。
よく間違うのが「計画継続」や「PlanDo」などと記載することです。何を継続するのか、実行するのか見た人がわからなくなる記載の仕方は避けるようにしましょう。
2 SOAP記録の代表的な二つの記載例
1章では事例をそれぞれの情報を用いて説明しました。SOAPを記載する上では、そのままS~Pの順番に記載する方法と重要なAから記載する方法の2つあります。どちらの方法がやりやすいかは個人差があると思いますので、事例を見ながら、自身が書きやすい方法を見つけてください!
<症例>
Bさん(82歳男性)誤嚥性肺炎の既往歴あり。大腿骨頚部骨折で入院していたが、痛みなどの症状はなく順調に経過。術後5日目で昨日より食事が常食に変更。主食・復職ともに10割摂取。体温36.7、脈78、血圧132/72、SPO2:94%。粗い断続性の副雑音が左肺より聴取あり。チアノーゼの出現はなし。悪寒などはなし。創部の出血はなし。
<S情報>
朝食を食べた後から少し息苦しい感じがする。食事は全て食べれました。吐いたりはしていないです。昨日は手術したところが痛くてあまり眠れませんでした。便は最近出ていない気がします。さっきから少し身体がなんだか熱い気がします。
2-1 主観的情報から記載するオーソドックスな方法
まずは主観的情報から順に情報をまとめます。そのため必要なS情報とO情報を記載してアセスメントしていきます。その結果を踏まえてプランを立案していきます。
2-1-1 主観的情報をまとめる
主観的情報「S」をまとめます。この場合はBさんが話す症状をまずは抜粋していきます。
S:朝食を食べた後から少し息苦しい感じがする。吐いたりはしていないです。さっきから少し身体がなんだか熱い気がします。
とにかくBさんが述べたことを整理して、必要なS情報をまとめるようにしましょう。ここではS情報として呼吸状態に関連するS情報を記載するようにしましょう。
2-1-2 客観的情報は必要な情報のみ
客観的情報は必要な情報のみにします。多すぎるよりは少ないほうがいいです。なぜなら問題点が混同してしまいアセスメントがブレてしまう要因になります。S情報で呼吸状態に関連するものを集めているのでここでも同様に客観的情報を集めます。
O:誤嚥性肺炎の既往あり。昨日より食事が常食に変更
体温36.7、脈78、血圧132/72、SPO2:94%
粗い断続性の副雑音が左肺より聴取あり
S情報同様呼吸状態や、Bさんの既往や変化に着目するようにします。「昨日より食事が常食に変更」などは迷ってしまう項目になりやすいので、もし判断に困れば記載しないのも1つの間違いが減るポイントになります。自分が看護師として必要とした客観的情報を記載するようにしましょう。
2-1-3 アセスメントは端的にわかりやすく考えをまとめる
アセスメントはS情報とO情報から必要な情報を考えて考えます。
今回のケースでいうと
「Bさんは誤嚥性肺炎の既往があり。昨日より常食に食事が変更となったが今朝よりSPO2の低下、肺雑音が左肺より聴取あり。体温が上がりきってはいないが、肺炎のリスク状態にあると考えられる」
となります。
ある情報を繋いで、Bさんの病状に対して何を問題に考えるかをまとめます。
2-1-4 プランは自分が何を行ったかを簡潔明瞭に記載
看護計画としては肺炎のリスク状態として呼吸状態の2時間ごとの確認、SPO2の測定、排痰ケアなどが挙げられます。
Bさんに起こっている、または起こりうる肺炎リスクの早期発見や看護師として行えるケアをプランとして挙げます。排痰が行えないことで、誤嚥性肺炎へと移行するリスクが高い為、看護師として実施する項目を記載します。
また症状の悪化が考えられるため、こまめに確認することを立案します。病棟などによっては「医師への報告をし、指示を仰ぐ」も一つになりますが、最低限看護プランに記載すべきことは、患者さんに現在生じている問題に対してアセスメントし、自分が何を行ったを記載することが大事になります。
2-2 Aから記載し、結論に合わせてSO情報を集める方法
私もそうでしたが、日々の業務に慣れてくるとアセスメントから考えたほうが簡単に記載できることがあります。
今回の症例でいくと、検温に行った際にSPO2が94%という数字が気になります。誤嚥性肺炎のリスクがあるなとアセスメントを行います。その上で、呼吸音の聴取や食事内容の確認を行います。もし採血などをしていれば、そのデータにも着目します。そして、Bさんに呼吸状態や状態を確認してS情報を集めるようにします。
SOAPで記録を書くことを意識して、アセスメントを注力して行い、問題点をみつけた時点で、それに対してのS情報、O情報を集めると問題点の分散を避けることができるのでおススメです。
<O情報が分散するのは間違いの証拠>
SOAP記録を記載することにおいて、集めすぎた情報は問題の分散、あるいは焦点がわかりにくくなるリスクが高まることに繋がります。今回のケースにおいて呼吸状態の異常にフォーカスを当てたいのに食事の摂取量や創部の状態はまた別問題になります。またS情報の不眠の訴えも息苦しくて寝れていないかもと勝手に判断して記載する要因になることもあります。そのため、O情報は2-1-2で述べたように最小限の記載に留めるように注意しましょう。
3 SOAP記録のメリット・デメリット
ここまでSOAP記録に関して記載しましたが、この章ではメリット・デメリットを紹介したいと思います。
主なメリットですが以下となります。
- 内容の整理が容易で、問題点に焦点をあてた記録や情報収集が可能
- 計画を実施の結果より評価し、科学的・系統的に記録する事が出来る
デメリットに関しては以下が挙げられます。
- アセスメントが難しい
- 主観的データと客観的データの区別に迷う
- 記録からは実施内容が見えにくい傾向がある
- 一時的で突発的な問題に対しては記録上、対応しにくい
それぞれ解説していきます。
3-1 SOAP記録のメリットは根拠のケアに繋がる
SOAP記録は内容の整理が容易になり、問題点に焦点をあてた記録や情報収集が可能になります。そのため看護師が看護実践やケアをする際に根拠に繋がりやすいです。また2章である誤嚥性肺炎のリスクを上げた場合、翌日にその計画に関しての実施を行って評価して、改めて継続するのか新たな問題の出現を考えるか、解決したのかを検討することができます。慣れない看護師が混同してしまうのは根拠が曖昧であったり、理解が弱い為です。そのためにも、SOAP記録でしっかりアセスメント能力を磨くことが重要と言えます。
3-2 SOAP記録のデメリットは長期間のプランには適さない
基本的には生じた問題に対してのプランになるため、短期的な問題解決に用いることが多くなります。また急変時などの突発的なケースでは問題点が多くなるため、SOAP記録では焦点を決めることが不可能となるため使用することができません。アセスメントが難しい点は1章で述べているように、看護実践の根拠が固まればそこまで難しくはなりませんし、情報の精査は可能になっていきます。
4 SOAP、フォーカスチャーティング、経時記録の違いとは?
まずはSOAP、フォーカスチャーティングのそれぞれの特徴を並べてみます。
SOAP | フォーカスチャーティング | 経時記録 |
患者さんがもつ問題ごとに、 S:主観的情報 に分けて記載する | 患者さんの反応や状態に焦点(フォーカス)をあてて、焦点ごとに D:データ を順序立てて記録する | 患者さんの状態・状況・実施した看護・治療や検査などに対する患者さんの反応などを経時的に記録する |
4-1 SOAPとファーカスチャーティングの違いは焦点が「問題」か「出来事」の違い
フォーカス・チャーティングとは、コラム形式の患者さん・利用者に焦点を当て、系統的に記述する経過記録です。「問題」に焦点を当てるSOAPに対し、フォーカス・チャーティングは「出来事」に焦点を当てるところに違いがあります。
つまり、SOAPは「全体的な視点」から総合的にケア・治療を行うための記録形式であり、フォーカス・チャーティングは「1つ1つの事柄」に焦点を当ててケア・治療していく記録形式となります。
フォーカス・チャーティングは読み手にとって患者さんの現状を素早く把握できる点は優れてはいますが、書き手によってフォーカスが異なるため、比較が難しくなります。
そのためまずはSOAP記録で問題を明確にできるようになってから次のステップで習得するようにしましょう。
4-2 SOAPは普段の看護ケアで使用し、突発的事象は経時記録で記載
経時記録は入院から初期計画の立案までの経過や、重症時、死亡時、事故発生時の突発的な出来事の経過、カンファレンスやムンテラの記録などを行う際に用いられます。とにかく時系列に羅列して記載するためわかりやすいです。ただ普段から経時記録で記載すると長くなりやすく、時間を要します。
問題点が明確ではなく、看護師として実践すること、アセスメントがすることができないため、普段定期的に使用するには不向きになります。SOAPで問題点に関して日々記録して、突発的事象などが生じた際に経時記録を使用するなど、使い分ける必要があります。
5 さいごに
SOAP記録はアセスメントをした結果を記録する形として大事になります。看護師としてSOAPで記録をしていることは法的文書となり、自分が何を考えて何をしたかを証明する文書にもなります。看護師として何を問題としてとらえて、アセスメントしたかが重要なポイントになります。記録をする上で最も大事な方法の一つになるので、是非勉強して今後の業務に活かすことができればと思います。
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