看護師の象徴だったナースキャップがどんどん廃止されている5つの理由
看護師といえば、白いナースキャップを被っているイメージがありますよね。
しかし、体調が悪いときやお見舞いで病院を訪れたとき、看護師を見るとナースキャップをかぶっていない人がほとんどです。
筆者も、学生のときはナースキャップをかぶっていましたが、病院で働いていたときは被っていませんでした。ナースキャップは、徐々に無くなってしまったようです。
では、いつの間にナースキャップは無くなってしまったのでしょうか?
また、廃止されたのには何か理由があるのでしょうか?
今回は、あまり知られていないナースキャップが廃止された理由について解説します。
目次
1 ナースキャップがどんどん廃止されている5つの理由
ナースキャップは、時代の流れとともにどんどん廃止されています。
色々な文献を調べていくと、2000年頃はまだ多くの病院がナースキャップを支給し、看護師達は毎日被って仕事をしていました。(参照:中小規模病院における看護職のユニフォーム交換頻度と看護管理者の指導に関する研究)
しかし、2007年頃には約8割の病院でナースキャップが廃止されています(参照:ナースキャッブの着用状況とその理由に関する全国実態調査)
廃止理由は、以下の5つです。
- 歴史的背景からの理由
- 衛生上の理由
- 働く看護師からすると意外と邪魔
- ユニフォームの多様化に追いつけなかった
- 男性看護師の増加
1‐1 歴史的背景からの理由
ナースキャップは歴史を紐解くと「女性の地位は男性よりも低い」ということを意味するアイテムでした。そのため現代においては廃止傾向にあるのです。
ナースキャップの歴史は古く、19世紀中頃まで遡ります。
当時、病院内の環境や看護師たちへの待遇は悪く、看護師の地位は世界的にも低かったそうです。今でこそ、看護師は社会的意義のある職業として確立されていますが、昔は大きく違いました。
「女性は男性よりも劣っている」という価値観のもと、医療現場でも女性の職業であった看護師は医師(男性)にコントロールされていました。
このような看護師のイメージを払拭するため、身分の低い人たちと区別をする目的でユニフォームが導入されました。
これには、ナイチンゲールの活動によって身分の高い人たちが看護師に加わったことも大きく影響したようです。
ユニフォームの原型となったのは、修道院の尼僧の衣装で、ナースキャップも同時期に導入されましたが、教会も男性によって支配されており、尼僧には発言権がなかったそうです。
そのため、ナースキャップの導入によってもなお「女性の地位は男性よりも低い」という価値観を象徴するアイテムになっていったのです。
しかし、以下の理由も背景に、アメリカやイギリスで1990年代にほとんどの病院で廃止され、欧米の近代看護を手本にしてきた日本でも2000年代初頭からどんどん廃止されています。(参照:ナースキャップの表現する看護婦像とフェミニズム-英米におけるナースキャップ廃止議論の背景にあるもの-)
1‐2 衛生上の理由
ナースキャップは、1990年代ごろから衛生面で問題視され始めます。
ナースキャップは毎日洗わないので、衛生的ではないという声があがったのがきっかけでした。さらに、ナースキャップの形を保つために「のり」が使われているのですが、この「のり」に細菌が発生するという調査結果があるようです。
1995年の調査結果によると、手指よりもナースキャップの方が多く菌が繁殖していたことがわかりました。(参考:看護学生に対する感染防止教育(第3報) -ナースキャップ付着菌の細菌学的検討-)
このような流れを受けて、ナースキャップは徐々に廃止されていったのです。
1-3 働く看護師からすると意外と邪魔
実際にナースキャップをかぶって働いてみると邪魔なことに気がつきます。
点滴台にぶつかったり、カーテンに引っかかったりなど、ナースキャップに気を取られてしまうのです。万が一点滴台を倒してしまったら、医療事故につながります。
1995年の調査結果によると、頻回にナースキャップを触っており仕事中に気に取られているのがわかります。(参考:看護学生に対する感染防止教育(第3報) -ナースキャップ付着菌の細菌学的検討-)
そして、ナースキャップがずれたらいちいち直さなければいけなくなるので、手間がかかるのです。
1-4 ユニフォームの多様化に追いつけなかった
看護師のユニフォームは白いワンピースタイプをイメージする人も多いですが、今はさまざまなカラーのユニフォームが登場しています。
形もワンピースタイプではなく、パンツタイプもあります。実際に着てみると、しゃがんだりかがんだりすることも多いので、パンツタイプのユニフォームは便利です。
このように、ユニフォームの多様化により、ナースキャップがあわない格好も増え、徐々に無くなっていったと考えられます。
1-5 男性看護師の増加
男性看護師はナースキャップをかぶりません。その男性看護師の増加がナースキャップ廃止の流れの一要因になっています。
男性看護師が増えるにつれて、女性にのみ着用が求められるナースキャップは差別的であるとの認識が広がったのです。
2 今まではどういう目的で使われていたのか
ナースキャップが使われていた目的は、看護師の象徴を表すためでした。
皆さんのイメージにもあるように、ナースキャップは一目で看護師と分かるアイテムでした。
「看護師になりたい」と思う人のなかには、ナースキャップに憧れをもつ人も多くいます。
また、看護師自身も、ナースキャップをかぶることで誇りと自信をもち、仕事に励むことができるとされてきました。
ただ、歴史的背景に挙げた「女性は男性よりも劣っている」という側面もあるナースキャップは時代の流れとともその目的も霞んでいきました。
3 現在は学校戴帽式もどんどん無くなっている
現在では、看護系の大学や専門学校で行われている戴帽式も無くなってきています。
戴帽式とは、看護学生にナースキャップを与える儀式です。
戴帽式の由来は、西欧で修道女がいばらの冠をかぶり、一生神に仕えると誓ったことだといわれています。
ナースキャップを与えられるのは、看護に必要な知識や技術を習び、患者さんの前に立つのがふさわしいと認められた看護学生です。
そのため、看護学生は戴帽式をひとつの目標にして、日々勉強に励みます。
筆者が看護学生だったときは、戴帽式がありました。戴帽式のことは、今でも鮮明に覚えています。厳かな雰囲気のなか、教員からナースキャップをもらったときは、身が引き締まる思いでした。
このように、戴帽式は看護師のひとつの通過点として実施されていました。
しかし、ナースキャップ廃止の流れを受けて、戴帽式もどんどん無くなってきています。
4 まとめ:ナースキャップを見なくなった背景にはポジティブな理由があった
看護師の象徴であったナースキャップですが、なぜ廃止になったのかを知ると納得がいきますね。
もしかすると、「ナースキャップが見られなくなって寂しい」と感じる人もいるかもしれません。しかし、ナースキャップの歴史や不衛生さを知ると、はたして本当にナースキャップは必要なのか疑問です。
ナースキャップがなくても、看護師は誇りと自信をもって働いています。
この記事を読んでいただいた後に看護師を目にしたときは、この記事を思い出し、誇り高き看護師の働く姿を見てもらえたら嬉しいです。
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