2019.12.26 |
訪問看護ステーションの受け持ち制とチーム制はそれぞれメリット・デメリットがあります。
神奈川県訪問看護推進協議会が2015年に実施した調査(※1)によると、受け持ち制を採用しているのは33.6%、チーム制は14.5%、それ以外の50.2%は受け持ち制とチーム制の併用、という結果もあります。
しかし、受け持ち制・チーム制・併用のどれを採用し、どのくらいのレベル感で実施されているかは、働いてみないと分からないときもあります。
そこで、今回は当社の訪問看護体制の取り組みも交えながら、受け持ち制、チーム制のメリット・デメリットと、どちらか迷った時の選び方など、知っておきたい訪問看護体制について書いてみます。
訪問看護は、訪問看護師が利用者様の療養先に伺い、看護や療養上の支援等を行いますが、体制については「受け持ち制(担当制)」「チーム制」の2つに大きく分類されます。
受け持ち制
受け持ち制(担当制)とは、1人の利用者さんに対して1人の訪問看護師が担当として訪問する形式をいいます。利用者さんが訪問看護の利用を終えるまで担当する看護師が訪問しつづける場合もあれば、メイン担当の急なお休み等をフォローするサブ担当を設けているところもあります。
チーム制
チーム制とは、1人の利用者さんに対して複数の訪問看護師が訪問する形式をいいます。メイン担当を中心にサブ担当を設けるチーム制のとり方をする場合もあります。
前述したような「併用型」は、受け持ち制とチーム制の両方を実施しているステーションと言えます。
受け持ち制のメリット・デメリットを書き出してみました。
受け持ち制のメリット
特定の訪問看護師が担当することで、利用者さんとの信頼関係を築きやすくかつ、担当する利用者さんに専念できるというメリットがあります。
また、自分の担当の利用者さんを中心に訪問していくので、同僚たちとの連携は少ないかもしれませんが、その分、外部と連携することに注力しやすく、仕事を1人で完結させやすいのはメリットでしょう。
受け持ち制の大きなデメリットは、急な体調不良の時等に休みが取りづらいところです。
1人で仕事が完結する分、他の人に頼みづらいといったところがデメリットになります。
また、ケアや対応方法が属人的になってしまうのも悩みの種。担当者変更や急な代行訪問をしたときに発覚しやすいです。
例えば、看護師Aさんが本来実施しなくてもよいサービスを、ボランティア的に実施していたが、新しく担当するBさんはやるべきサービスだけをしっかりこなすタイプだった時。利用者さんから「Aさんはやってくれたのに!」とクレームになってしまうことも。
その逆もしかりで、必要なケアを勝手に省略するというトラブルもあると聞きます。
共に担当している訪問看護師がいないことで、利用者さんの状況を理解した相談相手がおらず、悩み相談する相手がいなかったり、ケアの方向性の確認しづらいと、心細さや不安を感じる人もいるでしょう。
一方のチーム制ではどうでしょうか。
チーム制のメリット
複数看護師が担当することでお休みが取りやすいのは大きなメリットと言えます。また、複数看護師が担当することで、ご家族や医師、ケアマネジャーさんといった外部との連携が、自分がいない場合でもタイムリーに行いやすいのも大きなメリットでしょう。
さらに、看護の質向上が期待できるほか、訪問看護未経験でも先輩と共にケアを展開していくことができたり、担当制よりは多くの利用者さんの症例に関わることが出来るので、訪問看護経験が浅くても、成長していく環境はあると言えます。
チーム制のデメリット
担当を設けないことで、責任の所在が不明確になりやすく、またチームの看護師がケアを覚えるまでに時間を要したり、利用者さんやご家族と関係性を築くのにも時間を要するでしょう。また、訪問看護は朝から夕方まで各々が訪問に行き、あまり顔をあわせる機会も多いとは言えないため、チーム内での情報共有体制が、ある程度確立されていないと実施が難しいとも言えます。これについてはこの後詳しく解説します。
チーム制を採用しているステーションが少ないことに触れ、デメリットが多いような書き方をしてしまいましたが、チーム制を採用するためには事業所体制が整っていないと採用しづらいという、経営面等の課題があります。
チーム制を採用するために構築が必要な項目を挙げてみました。
チーム制の構築は、人も時間もツールも必要になるので、取り入れるまでにチーム体制を整える必要があります。
2003年頃の訪問看護体制のアンケート調査(※2)では、訪問看護の担当看護師の人数に関する利用者さんの希望は「絶対に1人を希望」もしくは「時々他の人が訪問するのは 仕方ないが担当は1人希望」を合わせると87.4%にのぼる、という調査結果もあります。
利用者さんとしては特定の訪問看護師に来てもらうことで、相談しやすかったり、毎回異なる看護師に来てもらうよりかは、ご家族等のストレスが少ないことは容易に想像ができます。
チーム制は利用者さんにまったくメリットがないわけではありません。在宅での生活は連携する人が多く、調整が大変なこともありますが、それぞれの専門性と知識、経験を活かしたサポートしてくれるので、協力し合うことでより良い療養生活を期待できます。
利用者さんにとってのチーム制のメリット
担当制の場合、看護師が退職してしまうと、知識も関係性もゼロからスタートの看護師が訪問することになりますが、チーム制の場合は、1人欠けても他の看護師がカバーできるため、そのような事態は少ないでしょう。
また、ケアの質の見極めが出来ることは大きなメリットになります。
チーム制によって利用者さんが看護の質の違いが分かるようになると「AさんはこうしてくれるのにBさんはこうしてくれない」「本当は新人のCさんのやり方がいいけど、ベテランのAさんには言えない」というような、チーム制ならではの悩みやストレスがあるのも事実です。
しかし、ここに自分に合ったやり方を看護師に提案できるようになるというメリットがあります。
というのも、希望に応えてくれる看護師がいないから事業所を変える、というやり方を続けていると、受け入れしてくれる事業所が減ってしまうので、あまり得策ではないからです。
看護師も完璧ではありませんし、利用者さんとの関わり合いの中で専門職として成長していきます。
利用者さん本人だけでなく、ご家族も「ケアの手順は本当はこうしてほしい」「言いたいことが言えない」というストレスを溜め込まないことが、理想とする療養生活を叶えるためには必要な時もあります。QOLの高い療養生活は、関わる仲間と共に作り上げていく協力体制の中で生まれるからです。
リカバリーでは、多くのステーションが採用している受け持ち制とチーム制の併用型をとっています。
もともとチーム制と公表し、従業員が休みやすい体制を目指して取り組んでいましたが、実質受け持ち制となっているようなケースがあることから、チーム制の構築の難しさを感じています。これは、どの訪問看護ステーションでも共通のお悩みではないかと思います。
チーム制で統一しづらい背景には、訪問看護ならではの事情があると考えています。
<受け持ち制になるとき>
例)性別、既存の利用者さんの訪問時間との兼ね合いといったものから、ご家族に猫アレルギーがあるから猫を飼っている看護師はNGといったものまで。
例えば、もともと複数看護師で介入していても、何かのきっかけでクレームをもらい出入り禁止になってしまい、訪問できる看護師が特定の1人になってしまった、ということもあれば、利用者さんから名指しで指名をもらい、それを受けてしまうこともあります。
性別による「あり・なし」なども訪問看護特有かもしれません。また、移動時間を加味したスケジュールを組む必要があるので、時間的な制約で「○曜日の○時は○○さんしか訪問できる人がいない」といった場合もあります。
チーム制の維持には、サービス契約段階で代行訪問の可能性を伝え、理解を得ておくことも大切ですが、利用者さんの希望する条件をすり合わせたときに手札が厚いかどうかも、体制の維持に影響すると考えられます。
受け持ち制とチーム制、メリット・デメリット、受け持ち制の実態についても赤裸々に解説してきました。
それぞれの特性について知った上で、職場選びをされている看護師の方がいたら「受け持ち制とチーム制どっちがいいの?」というところですが、もし迷われているのであれば、どちらであっても「急なお休みの希望に対応できるかどうか」で選んでみてはいかがでしょうか。
「訪問看護師の業務特性がバーンアウトに与える影響」(※3)という調査では、訪問看護師に疲労感を与えていると示唆されている要素に「急なお休み希望の通りにくさ」があると指摘しています。
「子どもの体調が悪くなった時,迎えに行かなくてはいけないが,仕事が終わらない,他のスタッフに申し訳ないといった内容が 複数みられた.訪問看護では,単独訪問が基本となるため,日々の個々の仕事(役割)が はっきりしていること,小規模事業所が多いことから急な対応が難しいことなどから,より負担感が強くなることが考えられる.」
この調査対象が平均年齢45歳の既婚の看護師が多いことも挙げられますが、お休みの希望の出しやすさは、年齢や職種に関係なくとも、ワークライフバランスの観点から重視したいところです。
例えば、受け持ち制でも、休み希望のときは管理者のフォローが徹底していたり、
チーム制で、情報共有のための携帯電話やスマホなどの貸し出しがあって、連携がスムーズであるなどなど。訪問看護ステーションでは、訪問看護師の働きやすさを目指し、さまざまな取り組みがなされています。
訪問看護ステーションの受け持ち制とチーム制について解説してきました。求人票等で受け持ち制・チーム制と書かれていても、それがどのレベル感で実施されているかはなかなか働いてからでないと分かりづらいところもあり、事業所によって大きく異なります。
しかし、訪問看護師の働きやすさを考えると同時に、今後多くの在宅療養の需要に応えていくには、利用者さんのニーズを汲みながらも、訪問看護師の働きやすさも考慮した、持続可能な運営体制の構築が各ステーションに求められていると思います。
これから訪問看護師を目指す方へ、運営体制を知ることで訪問看護の仕事を理解するきっかけになれば幸いです。
※1 2015年 神奈川県訪問看護推進協議会「訪問看護ステーションにおける人材育成についての 実態調査報告書」https://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/951216_3011643_misc.pdf
※2 利用者に満足される訪問看護を提供するためにhttps://www.jvnf.or.jp/15_report_05_01.pdf
※3 国際医療福祉大学審査学位論文(博士) 大学院医療福祉学研究科博士課程(2016)「訪問看護師の業務特性が バーンアウトに与える影響」