看護師転職サイトの知っておきたい3つの真実と本当にいい職場との出会い方
転職が当たり前の時代となり、転職をあっせんする有料職業紹介事業者(以下「人材紹介会社」)は過去最高の売上高・利益を記録する企業も出てきています。さらに、最近では新卒の医療職も、自ら就職活動を行わず、人材紹介会社経由で就職をする事例もあると聞かれ「転職は人材紹介会社を利用する」というのが一般的になりつつあるようです。
確かに、人材紹介会社は、経験、スキル、希望にマッチする求人を提案してくれて、応募書類の添削や面接同行までしてくれたり、応募先との日程調整や、面と向かって聞きづらい休みのこと、内定後の給与交渉も代わりにしてくれる!という点で、転職活動に慣れていない看護師にとっては、非常に心強い存在であることは間違いありません。
著者も、人材紹介事業の立ち上げに携わったこともあれば、転職サイトを運営する数多くの人材紹介会社ともお付き合いをさせていただいたこともあります。優秀なコンサルタントの方々の業界の知識の深さや提案力には、非常に助けられ、勉強させられる良い機会だったと振り返っています。
その一方、直接応募の看護師より、転職サイト(人材紹介会社)から採用した看護師のほうが、早期離職やトラブルが発生する割合が多かったことも経験上、たくさんありました。実際に人材紹介会社経由で就職をすると、早期離職の割合が高いことも明らかになっており、これについては医療業界で問題視されています(※1)。
早期離職の原因は様々な側面でのミスマッチと想像でき、一概に誰が悪いというものでもないことも多いです。しかし、ウェブ上で看護師向け転職サイトを調べると、転職サイトの口コミや評判が中心となったアフィリエイト(※2)が数多くヒットし「まずは登録・相談してみましょう!」と転職を助長するような内容が多すぎると感じます。
医療者の働き方改革が叫ばれる中、ライフイベントや過酷な勤務形態・環境などで、止む無く退職・離職に追い込まれる看護師も多いため、転職は必ずしも悪い選択肢ではありません。だからこそ、これから転職を経験するであろう看護師の皆さんに、本当に自分に合う、いい職場と出会い、長くお勤めいただくために、知っておいてほしいことがあります!
1つ目は、「いい転職サイト=いい転職ができる」ではないということ。
2つ目は、転職サイト利用で成功する人・しない人がいるということ。
3つ目は、働きやすい職場の求人ほど、転職サイトや人材紹介会社では見えにくいということです。
もちろん、この記事は転職サイト(人材紹介会社)の利用を非難する意図は全くもってありません。むしろ、転職サイトを利用すべき人・ケースも多く、プロフェッショナルの的確なアドバイスで着実なキャリアアップを実現していく方も非常に多いと思っています。
しかし、いくら売り手市場だからといって、短期間のうちに転職を繰り返すような不安定な生活を送ってほしくない―。1人でも多くの看護師が、長く勤められるようないい職場と出会ってほしいと、心から願っています。
そのため、今回の記事では「長く勤められるようないい職場」と出会えるよう、転職サイト(人材紹介会社)の利用の前に知っておいてほしいこと、転職サイトでは分からない転職トレンドや、いい職場との出会い方もお伝えしていきます。ぜひ最後までお付き合いください。
※本記事では、看護師向け転職サイトのほとんどが有料職業紹介事業者(以下「人材紹介会社」)によって運営されていることに基づき、「転職サイト」を「人材紹介会社」と同義として記載をしています
※1 日本医師会総合政策研究機構(2017)「看護職員等の医療職採用に関する諸問題:アンケート調査の分析と考察 」, <http://www.jmari.med.or.jp/download/WP396.pdf> 2019年9月28日アクセス.
※2 アフィリエイトとは…自身のブログやウェブサイトなどで、広告主の商品やサービスを紹介し、購入や成約に至った段階で、一定の報酬が入る成功報酬型広告のこと。報酬は広告主によりますが、看護師1名の会員登録で18,000円のバックがもらえるようなケースも
目次
1 転職サイト(人材紹介会社)を利用する前に知っておきたい3つの真実
「はじめての転職で不安だから」「分からないことを教えてくれそう」といった理由で転職サイト(人材紹介会社、以下、転職サイト)の利用をする方が多いことと思います。
しかし、この3つの真相を知った上で、転職サイトに登録して転職活動をしている看護師は果たして全体のうち、どのくらいいるのだろうか…と思うことがあります。
転職サイト(人材紹介会社)を利用する前に知っておきたい3つの真相
【真相1】いい転職サイト=いい転職ができる、ではない
【真相2】転職サイト利用で成功する人・しない人がいる
【真相3】働きやすい職場の求人ほど、転職サイトや人材紹介会社では見えにくい
この3つは、著者自身の就職活動の経験と、人材紹介事業の立ち上げに携わった経験、そして、希望者が少なく採用難の訪問看護ステーションの看護師採用に携わった経験から導き出したものです。
3つの真相を次章で詳しく説明していきます。
2 いい転職サイト=いい転職ができる、ではない2つの理由
自分にとって何が「良い」基準になるかはまちまちですが、多くの場合、下記がいい転職サイトと言われているのではないかと考えられます。
- 保有している求人数が豊富
- 非公開求人がある
- 紹介してくれる求人が的確
- キャリアアドバイザーの対応が早いなどの質の高さ
- 自分が住んでいるエリアに対応している
- 面接同行のサポートがある などなど…
しかし、いい転職サイト=いい転職ができるはイコールにはなりません。なぜなら、いい転職が出来るかどうかは、そもそも自分自身にかかっていますし、いい求人を紹介してもらえるかどうかはキャリアコンサルタントにかかっているからです。
2-1 いい転職ができるかどうかは、そもそも「自分次第」
いい転職が実現できるかどうかに転職サイトは一役買っていますが、いい転職ができるかどうかは全て「自分」にかかっているということを忘れてはいけません。求人数・非公開求人数の多さを売りにする転職サイトもありますが、どんなに求人数が多くても全てに応募ができるわけではありませんし、そもそも応募できる求人の数は自分のスキルと経験次第で増減するからです。
例えば極端な例になりますが、経験5年目の看護師でも、在籍期間が1年未満で転職を繰り返す看護師と、1つのところで勤務し続けている看護師とで、応募できる求人数や選択肢の幅が変わってきます。
その他にも経験した手技、診療科、リーダー経験の有無などが条件に加わると、応募可能な求人のタイプも変わってくるでしょう。
また、表立って言うことは法律上できなくとも、実際には「○歳で○回以上の転職をしている人材は採用しない」と独自に採用基準を設けている場合もあります。
求人を出す医療機関も、あなたが理想とする医療機関の条件を出すのと同じくらいに、応募する看護師に対して条件を設けているところもあります。転職サイトのサービスが素晴らしく、実績があったとしても、他人の力だけでは上手く行かないこともあることを知っておきましょう。
2-2 信頼できるキャリアコンサルタントを見つけることが大事
転職で失敗したくない人は、評判の良い転職サイトを利用したいと思う心理が働くと思いますが、いい転職サイトより、信頼できるいいキャリアコンサルタントを見つけることのほうが実は大事であるということはあまり知られていないのではないでしょうか。
コンサルタントに、自分の希望、ニーズ、スキル、ライフプラン、キャリアプランなどの将来も見据えた上で、的確な求人を紹介してくれたり、今まで自分になかった視点で求人を選ぶきっかけを与えてくれたり、時には市場価値も踏まえた厳しい指摘をしてくれたりする―。
人生が大きく左右される転職という岐路に立つ看護師の人生に本気で寄り添ってくれるコンサルタントを見つけた上で初めて、求人数の多さやサービスの手厚さが活きてきます。
キャリアコンサルタントのお仕事は、求職者を転職させることによって報酬をいただくことによって成立しています。そのため、看護師を多く転職させること=売上が上がる=コンサルタントの営業成績も上がるという仕組みです。そのため、求職者の希望や意向を無視した求人を執拗に勧めるコンサルタントも、全くいないわけではありません。
転職してよかったと思えるタイミングは、内定をもらった時ではなく、実際に働き始めてから感じるもの。そのため、転職すること自体が成功なのではなく、転職後に理想とする生活が送れることが転職における成功です。どんなにいい求人をたくさん保有している転職サイトでも、コンサルタントの調整スキルが低いとなかなか自分に合う職場との巡り合わせは難しいことを知っておきましょう。
2-1-1 謙虚で誠実なキャリアコンサルタントと出会おう
信頼できるコンサルタントとの出会い方は、とにかく多くの人材紹介会社のコンサルタントと、実際に会って話をするしかありません。
著者の経験上ですが、いいコンサルタントほど謙虚で誠実です。それは、転職先を紹介することは良くも悪くも「人の人生を大きく左右してしまう」という緊張感を持っているからだと思っています。
「とにかく希望の条件に合う求人を多く提案すればよい」とだけ考えているコンサルタントもいますし、それもコンサルタントの仕事の内なので間違いとは思いません。しかし、置かれている状況次第では必ずしも転職がベストな選択肢ではないときもあります。転職で失敗しないためのいい転職サイトを選ぼうとしているなら、時間を惜しまず、信頼のおけるコンサルタントを見つけるために行動しましょう。
3 転職サイト利用で成功する人・しない人の特徴
質の高い転職サイトの利用が転職成功とはイコールではない話をお伝えしましたが、転職サイトの利用で年収アップやキャリアップをしていき、転職に成功する方もいます。しかし、転職後すぐに退職してしまったりする看護師もいることから、転職サイト利用が適したタイミングの人とそうでないタイミングの人がいると著者は分析しています。
3-1 転職サイト利用で成功する人の3つの特徴
転職サイトの利用で成功する・理想のキャリアを手にしやすい人は3つの特徴があると分析しています。
転職サイト利用で成功する人の3つの特徴
- やりたい仕事が明確な人
- 長期的なキャリア・ライフプランがある人
- 希望の年収のレンジが明確な人
3-1-1 やりたい仕事が明確な人
やりたい仕事が明確に決まっている人は、転職サイトを利用すると効率の良い転職活動ができると考えられます。なぜなら、やりたい仕事が決まっているということは、どんな医療機関で、何科で、どんな仕事ができるか?といった軸に絞って求人を探せばよいので、コンサルタントへ希望を伝えて、やりたい仕事が実現できそうな医療機関を中心に応募ができるからです。
例えば、在宅で看取りをサポートできる仕事がしたい、と思ったら、お看取りを多く実施している訪問看護ステーションなどを紹介してもらうことになります。ホームページなどでは、実情が分かりにくい場合があるので、実際にひと月何件くらいお看取りがあるのかをコンサルタント経由で確認をしたりすると、思い描く職場とのマッチングの可能性が高まると言えます。
また、やりたい仕事を明確にコンサルタントに伝えられると、コンサルタント側も、その希望にマッチする求人を洗い出しやすくなります。コンサルタントによっては求人を出している医療機関や施設の人事担当と直接やり取りをして、どんな人材を欲しているかをヒアリングしているため、やりたい仕事と併せて、社風が馴染みやすいところを紹介してくれる可能性があります。
3-1-2 長期的なキャリア・ライフプランがある人
長期的なキャリア・ライフプランがあると、自身の意向が合致する職場であるかどうかが応募や内定受諾の尺度になるため、入社後のミスマッチを防ぐことができ、理想の転職が成功しやすいと言えます。
例えば、30代のうちにチーフやリーダー経験を積めるようなところに勤めたい思っている看護師の方がいた場合、役職者の座がほぼ固定されていて、チーフやリーダー経験を積むのにあと数十年は在籍し続けなければいけない病院と、20~30代でチーフやリーダー経験が積める訪問看護ステーションとでは、後者の方が理想のキャリアを築くのには最短といえるでしょう。
また、出産後復職できるような働き方をしていきたいと考えている方の場合、時短勤務が可能であったり、実際に復職している方が在籍している職場の方が、理想を叶えるための指標になります。
面接で自分のキャリア・ライフプランを語った上で内定が出たならば、なおのこと「こんなはずではなかった」という後悔を減らせるでしょう。また、人材紹介会社が中間に入ってもらうことで、内部の事情を教えてもらうことができるため、応募前の下調べができ、ミスマッチを減らしやすいと言えます。
3-1-3 希望の年収のレンジが明確な人
「とにかく年収を上げたい」「年収○○万円以上が絶対条件」というように、希望年収の幅が明確に決まっている人は、希望の年収の求人を探しやすいため、転職サイトの利用で成功しやすいと言えます。なぜなら、転職サイトで求人を出すには、嘘偽りのない求人情報を、転職サイトを運営する人材紹介会社に渡さなくてはならないため、転職サイト(人材紹介会社)は、最新で、正確な年収情報を保有しているからです。
生活していく上で、年収はとても大切な数値であるにも関わらず、面接を受ける前や内定前だと根掘り葉掘り聞きにくいですよね。しかし、転職サイト(人材紹介会社)を間に挟むことにより、正確な年収情報や、昇給、賞与の実績などを事前に知ることができ、年収次第で応募する求人を絞っていくことができるので、求人を探しやすくなり、転職を成功させやすいと言えます。年収を重視しすぎることはおすすめしませんが、奨学金の返済などで高い年収が必要という方にとっては、こうした転職活動が最も効率的と言えるでしょう。
では、転職サイトの利用で失敗しやすい人はどんな特徴があるのでしょうか。
3-2 転職サイト利用で成功しない人の3つの特徴
転職サイトの利用に向く人がいるように、向かない人の特徴もあると分析しています。ここで言う「成功しない」とは、著者の分析による、入職後1年以内に退職する人の傾向をいいます。
転職サイト利用で成功しない人の3つの特徴
- やりたいことがない人
- 募集要項の条件だけで選ぶ人
- 流されやすく断れない人
3-2-1 やりたいことがない人
やりたいことが決まっておらず、今の職場を1日でも早く辞めることだけを考えていると、転職サイトに出てくる求人が全て羨ましく見えてしまい、転職を繰り返してしまう可能性があります。まさに「隣の芝生は青い」というものです。
他を羨ましく思って今よりいい条件で転職を目指す志は良い面もあるのですが、今いる環境を抜け出したいという気持ちが先行し、転職の動機が曖昧なままに活動だけ進めてしまうと、転職活動の過程で内定が出た時に「本当にここでいいのか?」と悩みの種を作ってしまう要因になります。
自分のやりたいことは転職サイトを見ていても見つかることはありません。どんな看護をしていきたいか、どんな看護師になりたいのかがあやふやなうちは、安易な気持ちで転職サイトを利用しないことをおすすめします。
3-2-2 募集要項の条件だけで選ぶ人
明確な理由なく、給与・休み・ボーナス・福利厚生といった募集要項の条件だけで選んでしまう方は、転職しても長続きしない場合があるので、転職サイト利用には向かないでしょう。
なぜなら、理由なく給与や年間休日、ボーナスといった条件だけで選んでしまうと、条件では見えてこない職場の実情を知ることなく入職してしまったり、働いていくうちに当初理想とした条件はそこまで重要ではなかったと後悔する要因になってしまうためです。
例えば、年間休日は多いほうがいいと思っていても、実際働き出すと「ちょっと物足りないかも」ということもありますし、福利厚生の豊富さで選んだとしても「(福利厚生はたくさんあるけど)忙しくて利用してる暇がない」という、思わぬミスマッチが発生することもあります。また「年収もボーナスも文句はないけれど、新しいことにチャレンジさせてもらう機会がない」といったスキルの停滞があるかもしれません。
募集要項は大事な要素ではありますが、明確な理由が無く、憧れだけで選ぶと転職に失敗する可能性があることを心に留めておきましょう。
3-2-2 流されやすく断れない人
人の意見に流されやすく、自分の意見を言えない・断れないというタイプの人は、転職サイトの利用は注意が必要です。転職サイト経由で応募をし、内定をもらったがやはり断りたい、という時に、担当したコンサルタント経由で内定辞退の連絡を入れる流れになります。
この時、コンサルタントが辞退に対して考えを改めるよう勧めてくることもありますが、そうした時に本音を言えなかったり、コンサルタントからの説得で自身の意見をたやすく曲げてしまう人は、本来自分が理想とする転職を叶えにくいと言えます。
では、転職サイト利用の向き不向きがある上で、3つ目の真実を見ていきましょう。
4 転職サイトや人材紹介会社では見えてこない求人があることを知る
転職サイト(人材紹介会社)を利用する前に知っておきたい真相の3つ目は「働きやすい職場の求人ほど、転職サイトや人材紹介会社では見えにくい」というものです。これには、最近の採用のトレンドが大いに関係しています。というのも、良質な求人ほど、
①脱!人材紹介会社の採用方針を取っている
②求人を出さなくても人が集まってくる
という2つの大きな理由があります。ぜひ知っておいてほしいと思いますので詳しく解説していきます。
4-1 いい職場ほど「脱!人材紹介会社」の採用方針
転職サイト(人材紹介会社)に、良質な求人ほど掲載が無いのは、いい職場ほど採用が上手くいっており、転職サイト(人材紹介会社)を利用しない方針をとっているところが多いからです。長く働きやすい、いい職場ほど脱人材紹介会社の方針をとっているのには理由があります。
4-1-1 転職サイト(人材紹介会社)経由の採用はコスパが悪い
高額な費用を人材紹介会社に支払っているにも関わらず、早期離職してしまったというようなコスパの悪さから、脱人材紹介会社の方針をとる医療機関・施設が増えてきています。
直近3年で採用された看護師のうち、紹介会社経由の採用者の早期離職率は、全看護師の早期離職率と比較しても高い傾向にあります。(※1)
全看護師の早期離職率 | 紹介会社経由の採用者の早期離職率 | |
採用後 1 年以内 | 6.1% | 11.3% |
採用後半年以内 | 3.0% | 6.6% |
(表は※1「看護職員等の医療職採用に関する諸問題:アンケート調査の分析と考察 」の「3.6.看護職員(常勤および非常勤)の早期離職率の試算 」の情報をもとに作成)
著者自身も採用担当として、紹介会社経由の看護師の方にお会いしてきましたが、感覚的には上記の数字よりも、実際はもっと離職率は高いと感じています。
看護師1人紹介してもらい入職に至ると、内定を出した方の年収20~30%を手数料として支払うことになり、年収400万の方なら80万円前後を紹介会社に支払う必要があります。
しかし、早期に退職されてしまうと、払った手数料が水の泡。人材紹介会社の規定によりますが、よほどのことが無い限り一度支払った費用の全額は戻ってきません。
また、人材紹介会社経由で採用した看護師の方の入社後のトラブルが悪目立ちしてしまうことも、脱人材紹介会社の流れが加速していると著者は推測しています。払った金額に見合わないリターンで、採用した側が疲弊してしまうこともあるのです。
例えば、著者が見聞きした中では、突然欠勤し音信不通になる、従業員とのトラブル、患者さんへの詐欺まがいの行為や窃盗など…採用する側もトラブル因子を見抜けなかったということもありますが、入社後のトラブルが続くことで、紹介元である人材紹介会社への不信感を募らせてしまうこともあります。
そのため、すぐ辞めてしまったり、トラブルのリスクの高い人をお金をかけて採用するのではなく、長く勤めてくれる人を費用を抑えて採用したいと思うのは自然な流れと言えます。
4-2 いい職場ほど求人を出さなくても人が集まっているから
採用が上手くいっている職場=人が集まるような職場のため、よほど急を要する場合を除いて、わざわざお金をかけてすぐ辞めてしまうリスクの高い看護師を採用しよう、とはなりません。
なぜなら、いい職場ほど従業員が友人・知人を紹介する「リファラル採用」やホームページなどに記載の理念に共感して入社する「共感採用」が多いからです。
4-2-1 従業員の高い満足度があるからこそ上手くいくリファラル採用
最近では従業員からの紹介で採用をする「リファラル採用」が、組織にマッチした人材を採用できる等の理由からポジティブに捉えられ、見直されつつあります。その背景には、リファラル採用は現在働いている従業員の仕事や職場への高い満足度があってこそ成功するからです。
理不尽な上司がいる、残業代が出ない、評価されないといったネガティブな要素が多い職場に、大切な友人・家族に入社を勧めたいと思う人はいないと思います。リファラル採用はその逆で、いい職場だからこそ自信を持って紹介できるといったポジティブな歯車が回っているため、従業員の満足度の高さ→採用が上手くいくという好循環が生まれ、結果として人材紹介会社の頼らなくとも人材を獲得出来ています。
また、経営者や人事担当者の中には、人材紹介会社に支払う手数料分を、まずは在籍している従業員に還元したいと考えている方も多く、長らく組織を支えてくれている従業員を大切にすることで、結果としてリファラル採用が促進されることに重きを置いている場合もあります。
4-2-2 組織の理念に共感し、モチベーションの高い人材が集まる直接応募
人が集まる組織はリファラル採用が上手くいく好循環が生まれていること以外に、組織やトップに立つ人間(院長や施設長、管理者、社長など)の考えや価値観、理念等に共感して応募をする、共感採用が成功しているという点も挙げられます。
組織がもつ理念や価値観と、応募者自身が持つ目標や価値観に関連性や重なる部分があったからこそ、共感して応募・内定に至っているため、直接応募の人材は、仕事や組織の課題に対して自分ごと化ができ、入社後も高いモチベーションを持って働く傾向にあります。そのため、離職が少なくなり、チームへの貢献度が高くなるとされ、働きやすい職場環境が構築されていきます。
リファラル採用や共感採用で人が集まる組織は働きやすい環境が「人」によって作られていきます。
転職サイトの利用が必ずしも転職の成功とはイコールにならないこと、お分かりいただけましたでしょうか。しかし、転職する際、転職サイトを利用したほうがよいケースもありますので、次章で解説していきます。
5 こんな人は転職サイトの利用がオススメ!
自分の意志に反して、転職を余儀なくなされるような場合もあります。また、どうしても転職の進め方に自信が持てないときもあるでしょう。そんなときこそ、転職のプロに意見を仰ぎ、転職サイトを賢く利用することをおすすめします。
5-1 【すぐにでも転職したい!】大手1~2社に絞って登録を
パートナーの転勤や、やむを得ない事情ですぐにでも転職先を見つけなければならないような時は、大手を中心とした転職サイトに登録し、転職活動を進めていくことをおすすめします。理由としては、大手の場合、様々なエリアに営業所を展開していることで、取り扱い求人票のエリアが広いこと、転職までのフローが画一化されているため、内定までの各ステップに細やかなフォロー体制が整っているからです。
大手人材紹介会社は複数ありますが、すぐにでも転職を考えているのであれば、24時間電話受付をしているナースではたらこ(運営:ディップ株式会社)がよいでしょう。仕事が終わった深夜帯でも相談に乗ってくれます。
また、きめ細かい対応で評判なのが看護Roo!(運営:株式会社クイック)です。利用した看護師いわく「こまめに電話をかけてくれる」とのことで、初めての転職をスピーディーに済ませたい方は電話が繋がりやすい転職サイトがよいでしょう。
5-2 【情報収集や悩み相談がしたい】3~4社程度幅広く登録を
急を要する転職ではなく、まずは情報収集をしたり悩みを聞いてもらいたい、という場合は、前述した最大手のほか、3~4社程度登録し、複数利用をおすすめします。
なぜなら、コンサルタントとの面談は、自分のこれまでのキャリアや、今後していきたいことの棚卸しの良い機会となるからです。
面談では、生活に置いて譲れないポイントや給与の最低額、これまでの実績等を詳しく質問されると思いますが、声に出して話していくうちに「そういえばこんな委員会のお手伝いもしました」というような実績が見えてきたり、「実は●●科に行きたいと思っていたことがあって…」というような潜在的な希望に気づきがあるなど、貴重な機会になります。悩みや迷いがつきない方ほど、人と会って話す機会を作るようにしましょう。
前述した、ナースではたらこ、看護Roo!のほか、リクルートメディカルキャリアが運営するリクルートナースフルや、00年代に登場した医療WOKER、看護のお仕事、10年台に登場したナース人材バンクなど幅広く登録してみてください。
6 転職サイトに出ない本当にいい職場との出会い方
これまで転職サイト(人材紹介会社)の利用が、いい職場との出会いや転職の成功ではないこと、転職サイトだけでは見えてこない、いい職場があることをお伝えしてきました。最後に転職サイトでは紹介してもらえないような、長く勤められるいい職場との出会い方のコツをお伝えします。
6-1 第三者から見て「評判のいい看護師」になる
4章でリファラル採用が出来ている職場ほど良いとお伝えしましたので、一番大切なものは「看護師友達・先輩と多く繋がっておくことでは?」と思われるかもしれませんが、それよりも大事なことは、第三者から見て評判のいい看護師になることです。
評判のいい看護師とは、自己評価による仕事の結果や出来栄えではなく、あくまで第三者からの客観的な評価が大切であるということです。第三者から見て「あの看護師さんとなら一緒に働いてみたい」「あの看護師さんならきっと何かやってくれるに違いない」というような期待をかけてもらえるようになることで、声をかけてもらえる看護師になります。
例えば、クリニック勤務だった看護師のUさん。そこのクリニックでは、院長が企業と連携して、予防事業に取り組んでいました。院長のサポート業務をしていたUさんは、臨床経験の豊富さだけでなく、秘書のようなサポート業務の振る舞いも素晴らしく、パートナー企業の目に止まります。予防事業が一段落つくと、パートナー企業からヘッドハントがあり、(もちろん院長にも了承いただいて)転職されました。
第三者からの評判を築き上げるのには時間を要しますが、相手が自分を知ってくれた上で声をかけてくれているため、職場の雰囲気との相性も問題ない上での誘いであることがほとんどです。また、働き方や条件の交渉もしやすくなるため、理想の転職を叶えるには、実は案外近道であると思っています。
6-1-1 組織の評価=自分の評価ではないことを知っておく
評判のいい看護師になるといっても、ここで勘違いを避けてほしいのは、個人(同僚・先輩・後輩など)からの評価と組織からの評価(病院や企業が独自に設ける評価規定など)がいつも一致するとは限らないことです。
例えば、勤続年数が長く、組織からの評価が高い看護師が、同僚や後輩からは仕事が出来ない人として好かれていないということがあるように、組織の評価と、個人の評価は大きく異なります。
組織から評価されることも大切ですが、評価基準は組織や時代、業界の状況次第で大きく変わりますので、組織からの評価はいつも絶対ではないということを心に留めておきましょう。
6-2 先輩・友人などゆるく繋がりを保つ
委員会や勉強会などで知り合った先輩や同僚、友達の紹介で会った知人、心を許せる上司などがいれば、ゆるく繋がっておくようにしましょう。あえて「ゆるい」という言葉を使ったのには、頻繁に会う人でなくても、1年に1回会うくらいのペースでも繋がりを持っておくこと自体が有意義だからです。
例えば、お酒が大好きで、誘われた飲み会は断らない病棟勤務のKさん。友人の誘いで、とある訪問看護ステーションの懇親会に参加をしたところ、Kさんの親しみやすいキャラクターは一躍人気者に。懇親会に何度か誘われるうちに、全く視野に入っていなかったはずの訪問看護の面白さに魅了され、転職に至りました。
このように、転職のきっかけは思いがけないような、意外なところにあったりするものです。ゆるやかな人との繋がりも、転職という大きな実りに変わる可能性を秘めています。
6-3 理念に共感できる組織・人を探す
共感採用に対して真剣に取り組んでいる医療機関や施設であれば、ホームページやビジネスSNS、院長・採用ブログなどで、理念や医療機関・施設の成り立ちなど、情報開示を積極的に行っています。
「この先生の考え方、自分と同じだな」「この病院の取り組み、自分がやりたいと思っている地域貢献に近い」「自分もこんな看護がしたい」という共感が生まれたら、迷わずブックマークやフォローをしておくようにしましょう。いつかのタイミングで、転職先の候補にあがるかもしれません。
ビジネスSNSに代表されるWantedlyは、まだまだ病院やクリニックの登録は多くないようですが、訪問看護ステーションでは社長自らが記事を執筆しているページも多いです。起業までの思いや熱意が綴られていますので、ぜひ気になる医療機関・施設を見つけてほしいと思います。
また、患者さん向けで、広告出稿している医療機関のみ掲載ではありますが、ドクターズ・ファイルのインタビュー記事は質が高く、インタビュー数が豊富なので、医師との相性や連携が重視されるクリニックへの転職を考えている方であれば、参考になるでしょう。
すぐに転職しない場合でも「ここで働けたらいいだろうな」と思える職場候補をストックしておくことは、自分の理想の働き方・職場を再認識する機会にもなります。まさに業界研究とも言えそうなリサーチですが、日頃から自分の理想の働き方・キャリアの積み方を意識しておくことで、いい職場との出会いにきっと繋がるはずです。
まとめ
看護師の方へ転職サイト利用の注意点や、転職成功の秘訣など、これまでの経験を総まとめするつもりで、余すこと無く紹介しました。余すことなく正直に書いたために「転職サイト(人材紹介会社)のことディスってる?」と思われてしまうかもしれませんが、それは著者の本意ではありません。転職サイトがこれほどまでに多く存在している根底には、求人を出している医療機関・施設側が看護師たちの労働環境改善と、看護師たちが本当に知りたい情報を発信するという採用広報を疎かにしてきた結果だと思っているからです。
実情も分からないまま、実際に働いてみないと分からないことが多すぎるような、当たりかハズレか分からないギャンブルのような転職を繰り返すくらいなら、内情を適切に教えてくれる転職サイトを通じて就職するほうがよほど賢いでしょう。
ただし、転職サイトの利用が必ずしも絶対ではないこともあるということを、一人でも多くお伝えできたらという思いで書きました。
この記事が一人でも多くの看護師の方の、長く勤められる理想の職場と出会うための参考になりましたら幸いです。
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