看護師が行う環境整備とは?安全で快適な入院生活のポイントを徹底解説
入院患者さんの療養生活を安全で快適になものにすることは、看護師の重要な仕事の1つです。
この記事では、勤務1年目の看護師に向けて、看護師が行なう環境整備の目的やポイントを分かりやすく解説しています。ぜひ参考にしてください。
1.看護における環境整備とは?
早期回復を目指して療養生活を送る入院患者さんにとって、病室やベッド周りの環境が安全で快適であることは、日々をストレスなく安楽に過ごすうえで大変重要です。
それによって回復意欲が高まとともに免疫力も向上し、治療効果が上がることが期待できます。
また、清潔で安全な入院環境は、患者さんの家族から医療者に対する信頼を得ることにもつながります。
1-1.環境整備の定義
看護における環境整備とは、入院患者さんの病室やベッド周りの環境を安全で快適なものに整えることです。
近代看護の母と言われるナイチンゲールは「看護とは新鮮な空気と陽光、暖かさと清潔さ、静けさを適切に保つことである」と述べています。
戦場での献身的な看護というイメージのあるナイチンゲールですが、彼女の最大の貢献は、看護にとって環境整備が重要であることを世に知らしめたことです。
事実、彼女の提言によってイギリスの陸軍病院の衛生環境が改善されて、患者さんの死亡率が劇的に下がったと言われています。
1-2.環境整備の4つの目的
看護整備の目的は以下の4つです。
・入院患者さんにベッドからの転落事故などが生じない安全な環境を整える
・院内感染などが生じない衛生的な環境を保持する
・ストレスを感じず心地良く入院生活を送れる環境を提供する
・環境整備を通じて患者さんとのコミュニケーションを良好にし、看護のための情報を得る
1-2-1.入院患者さんのベッド周りの環境を安全で快適なものにする
患者さんは入院することで、生活の場と行動範囲のほとんどがベッド周りに限定されます。
限られた空間でさまざまな生活欲求を満たさなければならない患者さんに、ベッドからの転落事故やつまずきによる転倒事故などが生じない安全な環境、生活しやすい快適な環境を与えるのが、環境整備の目的です。
ベッドを周りの私物の配置や管理は、患者さんの自立度に応じて、患者さん自身や家族にゆだねらますが、看護師による適切な指導やアドバイスが必要です。
1-2-2.院内感染などが生じない衛生的な環境を保持する
入院患者さんは、健康な人よりも免疫力が低下していることを想定しなければならないし、そもそも病院はさまざまな感染症の患者さんが集まる場です。その意味で院内感染などが生じない衛生的な環境の保持は、もっとも基本的な環境整備の目的です。
病室は食事の場でもあり、病状によっては排泄の場でもあります。食卓となるオーバーテーブルや便器を置く床、寝具などは常に清潔に保たれなければなりません。
1-2-3.ストレスを感じず心地良く入院生活を送れる環境を提供する
人間のストレス因となるものには、温度・湿度・光・音・臭いなどがあり、これらが「快適な範囲」を超えるとストレスが大きくなり、内分泌の異常や免疫力の低下など、さまざまな悪影響があります。
また、隣のベッドの入院患者さんとの不和、入院生活での孤独感、看護師に対する不満などの精神的なストレスも、患者さんの回復を遅らせる要因になります。
このような心身のストレスをできる限り排除して、心地よい入院生活を送れるようにするもの重要な環境整備の目的です。
1-2-4.環境整備を通じて患者さんとのコミュニケーションを良好にし、看護のための情報を得る
環境整備の活動を通じて、患者さんをよく観察するとともに、患者さんとコミュニケーションを図ることで、看護に役立つ患者さんの容体に関する情報を得るのも環境整備の重要な目的です。
高齢化社会の進展でコミュニケーションをとるのが難しい高齢の患者さんがますます増えることが予想されるので、環境整備を通じた患者さんの情報収集はますます重要になります。
1-3.環境整備の効果
適切な療養環境を提供することで、院内事故を防ぐとともに、入院患者さんに精神的な安寧を与え、健康回復への意欲を高め、治癒を早めることができます。
上記の1,2の「環境整備の目的」を達成することで、転倒・転落事故などを防ぎ、院内感染を予防する、身体的な安全性を確保する効果があります。3、4の目的を達成することで、患者さんの精神的なやすらぎ、快適さを確保し、治癒を早める効果が期待できます。
1-4.看護師が環境整備に関わる意義
環境整備を外部の業者に委託せずに、できるだけ看護師が関わることで、患者さんとのコミュニケーションの機会が増えます。
それによって患者さんは安心感を抱き、看護師に親しみを感じるようになるとともに、看護師にとっては患者さんの回復状況などを知ることができます。
2.効果的な環境整備を行うための8つのチェックポイント
環境整備の目的を達成するために、具体的には下記のようなチェックポイントをおさえることが大切です。
一つひとつは地味な作業ですが、これらの目配りが総合されると患者さんの回復・治癒を促進する大きな力になります。
2-1. ベッド周りの安全
まず、ベッド周りの安全を確認することが重要です。ベッド周りでは次のようなチェックポイントがあります。
- 患者さんの体格に合わせてベッドの高さを調節する :
ベッドの端に座ったときに、かかとが床から浮かない高さが適切です。それ以上高いのは上がり降りのときに危険だし、低すぎても床に立つときの負担が大きくなります。 - ベッド柵の高さに対してマットレス・布団が厚すぎないかを確認する :
ベッド柵の高さに比してマットレスが厚すぎると、患者さんが寝返りをうったときにベッド柵を越えて転落する危険があります。(頭部から転落すことがほとんどなので非常に危険です) - ベッドネームやネームバンドがついているかを確認する :
患者さんの誤認が重大な医療事故につながるのは言うまでもありませんが、交替勤務が基本の看護業務では、医療行為の前にベッドネームを確認するなどの基本チェックをおろそかにしないことが重要です。 - ナースコールは患者さんの手元に置く :
容体急変に備えて、ナースコールはつねに患者さんが横になった状態で手の届く位置にある必要があります。 - 床頭台、ベッド周りの床の整頓 :
床頭台から物が落ちて床に散らばるとつまづいて転倒するなどの事故の原因になります。
2-2. 室温
基礎看護学によると、病室の望ましい温度と湿度は、夏は気温25~27℃・湿度50〜60%、冬は気温20〜22℃・湿度40〜50%とされています。人はある程度、季節の変化に適応して暮らしているので、夏と冬では快適と感じる温度は違います。
また、患者さんの温冷感は年齢によって、疾病の種類によって違うので、看護師はその点も配慮する必要があります。患者さんとコミュニケーションをとって室温を設定しましょう。上記はあくまでも一般的な目安ととらえてください。
病院の設備によっては看護師がエアコンを調整できない場合があります。そんなときも患者さんにガマンを強いるのではなく、施設部署に連絡するなどで調整することが望ましいです。
2-3. 照明と採光
日中の病室は、明るすぎない 100 ~ 200 ルクスが適当です。この明るさは、たとえて言うなら雰囲気のあるカフェの明るさくらいで、人がもっともストレスを感じない明るさと言われています。
うつ病の治療に光療法があるように、気分が落ち込みがちの患者さんには、日に何分か太陽の光を浴びることで気分を上向かせる効果があります。必要に応じて太陽光線を取り入れるなど、採光に注意しましょう。
逆に、西日が当たるような時間帯では、カーテンやブラインドで遮光する必要がある場合もあります。
病室の照明は看護師が調節できない場合が多く、まして患者さん個々に対応することは難しいのですが、できるだけの配慮をしましょう。
2-4. 換気
コロナ禍で一般にも、換気が重要な環境衛生対策であることが認識されるようになりました。
一般病室の換気は、フィルターを用いて清浄な外気を取り入れる換気システムが備わっている場合と、ない場合があります。装置がある場合は、その機能や換気回数などについて確認しておきましょう。
換気装置がない場合は、病室に不快な臭いがこもらないように、室温の変化に配慮しつつ、清浄な空気を取り入れるようにします。
排泄処理の後はとくに気をつけましょう。窓を開けて外気を取り入れるときは、埃、粉塵、微粒子の流入に気をつける必要があります。病室の広さなどに関係するため、窓を開ける回数、時間の推奨基準は定められていません。
患者さんさん自身や医療者は慣れっこになっていても、家族や見舞客は病室の臭いに敏感です。不快な臭いがあると病院の衛生管理に対する不安が生じる場合があります。
2-5. 騒音への配慮
病室の騒音は、日中 50 デシベル(dB)以下、夜間40 デシベル以下であることが必要と言われています。50デシベルは家庭用クーラーの駆動音くらいの音、40デシベルは図書館の中くらいです。
多くの人が「騒音」と感じるのは80デシベル(電車の車内の音)くらいからですが、病室内はもっと静かな環境が求められます。また、人は雨音のような連続した音には慣れて不快感を感じなくなりますが、突発的で不連続な音、高い金属音などには強い不快感を持ちます。
隣り合った患者さんの出す騒音に敏感な患者さんさんもいるので、苦情があった場合はていねいに対応する必要があります。医療者による大声や笑い声、足音・物品を扱うときの音にも注意しましょう。
2-6. プライバシー
個室以外の病室では、患者さんは多かれ少なれプライバシーの確保に苦慮し、ストレスを感じています。カーテンで仕切れるテリトリーはあっても、医療者や家族との会話は隣のベッドの患者さんに筒抜けになります。
個々の患者さんでプライバシー意識やテリトリー意識は違うし、病気の種類や治療段階も違います。病室では、医師から検査結果や病気の説明を聞きたくない患者さんもいます。
さまざまな「プライバシー欲求」に大部屋で完璧に応えることはできませんが、患者さんとの交流の中でどのような欲求やストレスがあるのかをできるだけ察知して、可能な対応をする必要があります。
高齢の患者さんさんのプライバシーにも配慮して、プライドを傷つけないように注意する必要があります。
2-7. 物品の配置
入院生活の安全と衛生のために、ベッド周りの整理整頓は重要なチェックポイントです。
ティシュなどの物品・備品を患者さんさんの生活のしやすさを考えて配置します。配置を変えるときは、患者さんさんの意見を聞いたうえで提案しましょう。
2-8.寝衣・寝具
パジャマ、寝具が、清潔で皮膚への刺激がないものかチェックします。高齢者は寒気を訴えることが多いので配慮が必要です。
シーツにしわがあると褥瘡(床ずれ)の原因になるので、必ず確認しましょう。
寝衣、パジャマのサイズが大きすぎたり小さすぎたりしていないかにも、目配りします。小さすぎると体の動きが窮屈になり、大きすぎると転倒の原因になったり、食事のとき汚しやすくなります。
3.ベッド周りの環境
ベッド周りには、次のようにさまざまな設備や備品があります。それぞれが適切に配置され機能しているかをチェックします。
- ベッドの高さ調整リモコン
- ウォールケアシステム(医療用ガスの吸引システムやナースコールなどの集約したもの)
- ヘッドボードとフットボード(枕や布団のズレ落ちを防ぐ)
- オーバーテーブル(食事のときなどに使用)、
- ベッド柵
- ベッドストッパー
- 床頭台(患者さんの私物を置いたり収納する台)
- イス(付き添いや見舞客用)
画像引用元:「演習で 使える! 環境整備 ベッド周りの環境」http://www.medical-friend.co.jp/image_2/cs202004.pdf
3-1.ベッドの高さ調整リモコン
ベッドの高さはリモコンまたは手動で調整できます。
2-1で述べたように、患者さんがベッドの端に座ったときに、かかとが床から浮かない高さに調整します。
ベッドからストレッチャーへ移乗するときは、両方の高さを合わせると、移乗が楽なだけでなく安全性も高まります。
3-2.ベッド柵
マットレスの厚みに対してベッド柵が低いと、患者が寝返りを打ったときなどに、柵を乗り越えて転落する恐れがあります。ベッド柵は患者が側臥位の寝姿勢をとったとき、身体の中心線より高くなければなりません。
褥瘡(床ずれ)予防マットレスは厚みがあるので、ベッド柵の高さとの関係に注意しましょう。
3-3.ベッドストッパー
不意にベッドが動くと、ベッドへの乗り降りや伝い歩きの際にケガをする恐れがあるので、移動時以外はつねにストッパーをかけておきましょう。
ベッドストッパーは、4隅の車輪がすべて異なる方向を向いた状態でストッパーをかけると、少し力で動いてしまうことがありません。
3-4.ヘッドボードとフットボード
ヘッドボードとフットボードは、枕や布団のズレ落ちを防ぐほかに、伝い歩きをするときの手すりの役割もあります。着脱式のボードの場合は、しっかり定位置に固定されているかどうか確認しましょう。
3-5.オーバーテーブル
食事のときなどに使用するオーバーテーブルは汚れやすいので、清潔な状態で使われているかチェックしましょう。
配膳した状態で高さを調節すると、ガクンとテーブルが落ちる場合があります。物が載っていない状態で調節しないようにします。
オーバーテーブルを支えにして移動しようとして、テーブルが動いたために転倒したという事例があります。伝い歩きの支えなどにしないように、患者さんに注意をしましょう。
3-6.床頭台
テーブルにお茶の用具やテレビを置いたり、上・下のスペースにタオルやおむつなどを収納するのが床頭台です。患者さんが床頭台を支えに歩こうとして、床頭台が動いたために転倒した事例があります。床頭台のキャスターも普段はストッパーをかけておきましょう。
床頭台の整理整頓は患者さん本人や付添いの家族に任されますが、必要なものを取り出しやすい整頓の仕方などをアドバイスすると良いでしょう。
3-7.イス
ベッド周囲には付き添いや見舞客用のイスがあります。1人の患者さんがイスを独占して物を置いたり、衣服をかけておいたりしているケースがあるので、注意しましょう。
3-8.ウォールケアシステム
医療用ガスの吸引システムやナースコール、電源などを1カ所に集約したのがウォールケアシステムです。それぞれの端子の位置と機能を知り、使い方に習熟しておきましょう。
4.環境整備の手順とポイント
環境整備の手順とその際のポイントを下表にまとめました。
手順 | ポイント |
1.必要な用具を準備し、患者さんに作業を始めことを説明する | 患者さんの治癒段階、自立状態を把握して、施行順序を考慮する |
2.窓を開け、換気する | 外気温との差に注意して、換気時間を調整する |
3.粘着ローラーでベッド上のゴミを除去する | |
4.シーツのしわを伸ばし、掛け布団、枕などを整える | シーツのしわは褥瘡の原因になるので特に注意する |
5.床頭台(しょうとうだい)の上やベッドのサイドテーブルの整理整頓を行う | 他人に私物を触られるのを嫌う人もいるので、必ず声をかけてから行う。私物の取り扱いは十分注意して、紛失、破損しないようにする |
6.消毒液に浸して絞った雑巾で床頭台、オーバーベッドテーブル、ベッド柵及びベッド周囲の溝を上から拭く | 感染症の患者さんには専用の雑巾を使用する。雑巾の洗浄は患者さんごとに行い、院内感染の予防に努める |
7.尿器やポータブルトイレに排泄物があれば処理する | 床の汚れにも注意して、汚れがあれば清掃する |
8.新聞紙、雑誌など不要になったものがあれば、患者さんに確認してから片付ける。 | |
9.不必要となった酸素マスク、吸引カテーテル、体交枕などがあれば片付ける | |
10.ナースコールを患者さんの手に届く位置に置く | |
11.整備が終わったら手を洗う。または、擦り込み式消毒剤で手指消毒を行う | |
121.物品の片付けを行う |
5.環境整備の留意点
ここまで看護における環境整備の目的や内容について説明してきましたが、以下に環境整備を行う際の患者さんとの精神的な交流における留意点という観点からまとめておきます。
環境整備を行なうときは、事務的に必要なことをするだけではなく、患者さんが感情とプライドを持つ「人間」であることを十分配慮し、下記のような点に留意しましょう。
- 患者さんの同意を得て行う
- 患者さんのプライバシーに配慮する
- 患者さんの意見・要望を確認する
また、環境整備は患者さんの容体、回復度などの情報を得る大切な機会なので、次の点にも留意しましょう。
- 作業の際に患者さんの様子をよく観察する
- できるだけ会話をしながら作業する
- 患者さんの自立度に応じて介助する
6.まとめ
環境整備では、転落・転倒事故や院内感染が発生しない「安全性」がもっとも重要ですが、患者さんがストレスなく療養生活を送れる快適さも重要です。
とくに、意思疎通が図りにくい高齢者や自己主張が強くない患者さんさんにも十分配慮して、ストレスのない入院生活を送ってもらうことが大切です。
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