看護師の行政処分は3つ!事例付きで徹底解説
行政処分とは、刑事処罰を受けた看護師に対して厚生労働省から下される処分のことを指し、看護師を対象とした処分は3つあります。
医療過誤だけでなく、悪質な交通事故や窃盗、不法な麻薬所持などの違法行為を行った看護師が対象になり、年間で20人前後が行政処分により業務停止や免許取消の処分を受けています。
また、行政処分を命じられる看護師は年々増加傾向にあり、2008年からは行政処分を受けた看護師を対象にした再教育制度もスタートしました。
業務停止・戒告処分を下された看護師は再教育を受けなかった場合は保助看法第45条に違反し刑事罰の対象となることも。
そんな、1度は耳にしたことのある「行政処分」ですが、実際に命じられる処分内容とはどんなものなのでしょうか。
今回は行政処分の種類と、その対象となる違法行為について説明します。
目次
1.看護師への行政処分は3種類
行政処分とは、看護師等が罰金以上の刑に処せられた場合、厚生労働大臣によって免許の取り消し、または期間を定めた業務の停止が命じられる制度です。
行政処分は重いものから順に
・免許取消
・3年以内の業務停止
・戒告
があります。行政処分までは至らないと判断されたものについては、行政指導(厳重注意)となることもあります。
1-1.免許取消
看護師の受ける行政処分の中で最も重い処分が「免許取消」です。
罰金刑以上の処罰を受けて前科がついた看護師にはこの処分の対象となる可能性があります。
1-2.業務停止
行政処分として下される業務停止処分は最長で3年です。事犯の程度や悪質性によって期間は異なり、短い場合は3ヶ月程度の業務低処分となることも。
1-3.戒告
戒告は「将来を戒める」という位置づけの処分であり、免許取消や業務停止のような制限を設ける処分ではありません。
ですが、行政処分という括りには変わりなく、処分歴として記録されます。万が一再び行政処分相当の刑事処罰を受けた場合には、比較的重たい処分が課せられることになります。
参考:https://www.e-kango.net/safetynet/press/from/pdf/Vol4.pdf
2.何をすると行政処分対象になる?
看護師に対する行政処分は保健師助産師看護師法に基づいて行われます。
「このミスをしたから行政処分対象になります」といった明確かつ統一的な基準はなく、あくまで刑事裁判を元に、加害看護師の責任の重さに則った処分が下されています。
2-1.行政処分を課せられる基準
行政処分の決定には①判決内容と②事案の重大性・看護師等に求められる倫理・国民に与える影響等が考慮されます。
①
事件の重大性とは、刑事処分の量刑、刑の執行が猶予されたか否か等の下された判決により決定します。
②
事案の重大性・看護師等に求められる倫理・国民に与える影響等については生命の尊重、身体及び精神の不可侵性の保証、看護 師等が有する知識や技術を適正に用いること及び患者への情報提供に対する責任、専門職としての道徳と品位などの視点を重視 して審議されます。
この二つを考慮した上で、行政処分とするのか、厳重注意で留めるのかといったことを決定します。
2-2.実際に行政処分対象となった犯罪類型
■身分法(保健師助産師看護師法、医師法等)違反
身分法違反とは、定められた教育課程を修了し免許を取得した者が医療に従事すること及び免許を取得していない者が不法に医療行為を行うことのないよう規定した法律です。
看護師免許を取得していないのに看護師として従事していたり、看護師が医師を騙った場合に抵触する法律です。
■麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反及び大麻取締法違反
不法譲渡や不法所持をした麻薬量、使用期間、累犯により行政処分の有無が決まります。
看護師という麻薬や覚醒剤の危険性を理解しているべき立場の人間によって侵されたこと、使用した状態で業務にあたることの危険性から重い処分を下されることもあります。
■殺人及び傷害
殺人及び傷害については看護倫理部会は「本来、人の生命や身体の安全を守るべき看護師等が、殺人や傷害の罪を犯すことは、看護師等としての資質や基本姿勢が問われるだけではなく、専門職としての社会的な信用を大きく失墜させるものである。特に、殺人を犯した場合は基本的に免許取消の処分がなされるべきである」としている一方で、「ただし、個々の事案では、その様態や原因も様々であり、行政処分に当たっては、それらを考慮に入れるのは当然である」ともしています。
殺人や傷害については原則として免許取消の姿勢ですが、情状酌量の余地は考慮すべきということです。
■業務上過失致死傷(交通事犯)
交通事犯では、看護師という職業的立場もあり、救護措置をとらなかったことや、通報を怠ったことに看護師としての資質を問われます。
■業務上過失致死傷(医療過誤)
医療過誤について、看護師一人の責任に問うことが難しい場合も多く、医療機関の管理体制や人事面での問題が蓄積されたことにより発生した可能性も考慮されます。
■わいせつ行為等(性犯罪)
わいせつ行為等の性犯罪は、看護師という専門職の品位を貶め、看護師等の社会的地位を失墜させかねないことから、その立場を利用して行った犯行は悪質とみなされ、相当に重い処分が下されます。
■詐欺・窃盗
患者さんとの信頼関係を基に業務を行う看護師がその立場を利用した事犯は、看護師等としての倫理性が欠落していると判断され、相当に重い処分が下されます。
■診療報酬及び介護報酬の不正請求等
不正請求は金額の多寡に関わらず6か月以内の業務停止処分が下されます。ただし、特に悪質性の高い事案の場合には、それ相応の処分が下されます。
2-3.2021年の行政処分内訳
2021年には全国で13名の看護師が、実際の行政処分対象となりました。
内訳は以下の通りです。
免許取消:5件
(窃盗3件、詐欺1件、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反、名誉毀損1件)
業務停止6ヶ月:2件
(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童保護等に関する法律違反 1件、公然わいせつ1件)
業務停止4ヶ月:1件
(医師法違反)
業務停止3ヶ月:4件
(道路交通法違反3件、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(群馬県)、建造物侵入1件)
業務停止1ヶ月:1件
(窃盗)
こうして罪状を見てみると、医療事故等によって業務上過失致死の罪に問われる看護師は少ないように思われます。
事実として、インシデント・アクシデントの類は環境要因が強く、本人の意思により引き起こされた場合には「殺人または殺傷」が適応される場面が多いです。
また、傾向として強いのは「窃盗」で罰金を伴う実刑判決がくだされた場合、かなりの確率で免許取り消しになります。これは業務上過失致死以上に看護師自身の資質を問われるからだという背景があります。
そしてこの記事を読まれている中には学生の方もいるかと思います。万が一、過去に罰金以上の実刑判決を受けている場合は「欠格事由」に相当することがありますので、厚生労働省の窓口や日本看護協会へ相談してみましょう。
2-4.行政処分執行例
ここでは過去に実際執行された行政処分を処分内容別にご紹介します。
■戒告
罪状:住居侵入、窃盗未遂
当人は、窃盗の目的でE県U市所在のA子方ベランダ内に柵を乗り越えて侵入。そのころ同所において千していた洗濯物をかき分けて女性用下着を物色中、A子本人に発見されたため、その目的を遂げなかったものである。
司法処分:罰金30万円
■業務停止(3ヶ月)
罪状:業務上過失致死
当人は、T県N市A病院に准看護師として勤務。某年 1月 23日 午前 11時 15分ころ、患者B子 (当時 88歳)に対し、病院医師C男から塩化カリウム液を輸液製剤であるリンゲル液に混合して希釈した上で点滴するよう指示されていた。
静脈に塩化カリウム液である「K.C.L.点滴液 15%」1アンプル約20ml投与するに当たり、塩化カリウム液を希釈しないで使用すると高カリウム血症による心停止を引き起こす危険があるため、同医師の前記指示に従って、同塩化カリウム液をB子の静脈に刺入されていた点滴管から点滴投与中であったリンゲル液約250mlに混合して希釈した上で、同点滴管を通して前記B子の静脈に点滴投与すべき業務上の注意義務があった。
しかし、これらの対応を怠り、同塩化カリウム液約18mlを希釈しないまま、前記点滴管途中の三方活栓から直接B子の左腕部静脈に注入した過失により、高カリウム血症による心停止に陥らせ、27日 午前 3時 31分 ころ、同病院において、同心停止に基因する低酸素脳症により、B子を死亡させた。
司法処分:罰金70万円
■免許停止
罪状:危険運転致死
酒及び睡眠導入剤の影響により、運転操作が困難な状態で自動車を走行させ、約数十メートル進行し仮眠状態に陥り、左前方の歩行A子に衝突し転倒させた上、車底に巻き込み轢過し、出血性ショックにより死亡させた。
司法処分:懲役2年6ヶ月
3.行政処分された看護師には再教育が行われる
行政処分を受けた看護師は厚生労働省の定める再教育を受講しなければいけません。
また、その際には手数料として戒告処分の場合は7,850円、業務停止・免許取消処分の場合は15,700円を納める必要があります。
再教育の内容は行政処分の程度によって決定します。
① 戒告処分を受けた保健師等 → 集合研修
② 業務停止1年未満の処分を受けた保健師等 → 集合研修及び個別研修又は集合研修及び課題研修
③ 業務停止1年以上の処分を受けた保健師等及び取消処分後に手続きを経て保健師等の再免許を受けようとする者 → 集合研修及 び個別研修
3-1.集合研修
■研修内容
職業倫理及び看護技術のうち医療安全に関連する内容等
■研修期間
戒告処分を受けた看護師 1日
業務停止又は免許取消処分を受けた看護師 2日
3-2.課題研修
■研修内容
課題研修の内容は、当該課題研修対象者が現場に復帰後、国民に対し安心、安全で、質の高い医療及び看護を提供することに資するもの。
■課題研修修了報告書の提出
課題研修修了後、氏名、生年月日、保健師籍等の登録番号・登録年月日(取消処分後に手続きを経て保健師等の再免許を受けようとする者を除く。)、課題研修の内容、その他必要な事項を記載した課題研修修了報告書を作成し、原則として、業務停止処分が終了する日の30日前までに厚生労働大臣まで提出すること。
なお、業務停止処分が3月以下の場合は、業務停止処分が終了する日の原則として14日前までに提出することとする。
3-3.個別研修
■研修内容
見学やシミュレーターを用いた演習、カンファレンスへの参加、ボランティア活動等、当該個別研修対象者が、現場に復帰後、国民に対し安心、安全で、質の高い医療及び看護を提供するために役立つものとするが、免許の停止中又は失効した者であるので、業務独占行為を伴う実務研修は行うことができないものである。
■研修期間
・業務停止1年未満の処分を受けた保健師等のうち、課題研修対象者以外の者 → 20時間以上
・業務停止1年以上2年未満の処分を受けた保健師等 → 80時間以上
・業務停止2年以上の処分を受けた保健師等及び取消処分後に手続きを経て保健師等の再免許を受けようとする者 → 120時間以上
■助言指導者の選任
個別研修を受ける場合、個別研修対象者は個別研修対象者に対して、助言、指導等を行う者を選任した上、厚生労働大臣の指名を受けなければならない。
■助言指導者の要件
① 個別研修対象者と親族関係にない者であること。
② 保健師等免許取得後5年以上経過している者であること。
③ 助言、指導等を行うのに必要な知識・技術を有し、次のいずれかに該当する者であること。
ア 医療機関の看護管理者や看護教育担当者、医療安全管理担当者等。
イ 個別研修対象者が卒業した学校養成所等において、専任教員レベル以上の者
ウ 看護関係団体の卒後教育担当者等
エ 上記に掲げる者と同等以上の知識及び技術を有すると認められる者
ただし、助言指導者を複数選任する場合は、上記の①から③までの全ての要件を備えた助言指導者を必ず1人選任すれば足りることとするが、要件①については、他の助言指導者も必ず満たさなければならないものとする。
また、個別研修計画書及び個別研修修了報告書への署名は上記の全ての要件を備えた助言指導者が行うこととする。
なお、助言指導者に対しては、医療機関等の医療安全管理室や看護部門の教育委員会、学校長や看護関係団体の長等が組織として支援することが望ましい。
■個別研修計画書の作成等
個別研修対象者は、助言指導者の協力を得て、氏名、生年月日、保健師籍等の登録番号・登録年月日(取消処分後に手続きを経て保健師等の再免許を受けようとする者を除く。)、個別研修の内容、個別研修の実施期間、助言指導者の氏名等を記載した個別研修計画書を作成し、当該計画書の内容が適切である旨の助言指導者の署名を受けた上で、原則として、個別研修を開始しようとする日の30日前までに厚生労働大臣まで提出すること。
なお、当該計画書の内容が適切でないと認められる場合には、厚生労働大臣が当該計画書の内容の変更を命じることがある。
■個別研修修了報告書の提出
個別研修対象者は、個別研修を修了後、氏名、生年月日、保健師籍等の登録番号・登録年月日(取消処分後に手続きを経て再免許を受けようとする保健師等を除く。)、個別研修の内容、個別研修の開始・修了年月日、助言指導者の氏名及びその他必要な事項を記載した個別研修修了報告書を作成し、当該対象者が個別研修を修了したものと認める旨の助言指導者の署名を受けた上で、原則として、業務停止処分が終了する日の60日前までに厚生労働大臣まで提出すること。
個別研修修了報告書が適切と認められる場合、厚生労働大臣は個別研修修了証を交付する。
4.まとめ
看護師が行政処分を受ける事犯は毎年発生しています。法を犯すことは看護師の社会的地位や品を貶めることに繋がり、処分を下された看護師自身も今後の人生に重荷を背負っていくことになります。
実際に再教育を経て、再免許の付与を申し出たとしても必ず与えられるわけではなく、2021年に申請があった3件で認められたのは1件というシビアなものでした。
すべての犯罪が行政処分につながるわけではありませんが、人命と倫理を重んじる看護師という職業だからこそ、責任を持った行動を心がけましょう。
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