看護師が安全に産休・育休をとるために知るべき基礎知識と3ステップ
「私の病棟は人手がないから産休、育休取れるのかしら」そう思っている看護師は意外に少なくないかもしれません。特に、社会人経験の少ない若手看護師であれば、産休・育休といった制度について説明できる方は殆どいないのではないでしょうか。
本稿では、看護師が知っておくべき産休・育休制度についての概要と、看護師が産休・育休をとるまでの期間で気をつけるべきことを解説していきます。
目次
1 産休・育休は職業・職場に関係なく取得可能
産休・育休が取れるか心配…そんな心配は不要です!
なぜならば、産休・育休ともに、労働基準法上で認められた労働者の権利だからです。
当然、病院勤務だから難しいなどという訳ではありません。産休・育休の取得や申請したことなどを理由として、解雇や配置転換の強要など、「不利益な扱い」をすることは禁止されています。
しかしながら、法律で禁止されているにも関わらず、「うちは産休制度がないからやめてもらう」などと、退職を迫ってくる職場も事実としてあるようです。
もし、職場からそのような不当な扱いを受けた場合は、各都道府県の労働局に問合せ・相談するのをお勧めします。
2 産休・育休の取得条件
産休取得に条件はなく、育休取得には条件があります。
以下で具体的に説明していきます。
2-1 産休取得に条件はない
産休は母体保護を目的としており、取得に関しては、一定期間働く等という条件はありません。そのため、働き始めてすぐに妊娠が分かった時でも産休は取れます。
2-2 育休取得には条件がある
育休取得に関しては産休取得と違って条件がある場合が多いです。
取得できない条件については、労使協定(病院と従業員との間で書面により締結された協定)の中で定められています。
以下は厚生労働省で出されている内容で、一般的に採用されている取得条件になりますが、勤め先の病院によっては内容が異なることもありますので、ご自身で確認することをお勧めします。
<期間の定めのない雇用契約(無期雇用)の場合>
・1年未満であっても原則として育休を取得することは可能
<期間の定めのある雇用契約(有期雇用)の場合>
・ 子どもが1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない場合
*原則として入社1年未満での育休取得の場合、労使協定があって会社が拒否した場合は取得ができません。
勤め先の内容を確認することが大事でしょう!
妊娠後は、体の変化とともに生活など環境の変化や準備など慌ただしい時期が続くでしょう。
なるべく早く制度について知っておくと、余裕を持って産休前の期間を過ごすことができます。
ここでは、産休・育休の期間・給料・手続きについて解説していきます。
3 知っておきたい産休・育休の期間・手当・手続き
3-1 産休・育休の期間
産休・育休の期間を把握する必要があります。
図1は産休・育休期間を表しています。各期間について詳しく説明していきます。
3-1-1 産休は最大14週間
産休は産前休業、産後休業それぞれ期間があります。
産前休暇は出産予定日前の6週間、産後休暇は出産の翌日から8週間で合わせて最大14週間になります。
出産予定日よりも実際の出産日が後の場合はその差の日数分も産前休業に含まれます。
産後休業は、出産の翌日から8週間は就業することが法律で禁止されています。
例外として、産後の経過が良い母親は、医師の診断書がある場合に限り、6週間を過ぎれば職場に復帰できます。
3-1-2 育休は最大2歳まで延長可能
育休は、原則として1人の子につき1回で、子どもが生まれた日から1歳の誕生日の前日までの期間です。
ただし、子どもが1歳の時点で職場に復帰できない場合は1歳6ヶ月まで、1歳6ヶ月の時点でできない場合は2歳までと、2回の延長ができます。
- ”認可”保育所の利用を希望し1歳以後に入園が決まっていない場合
(市区町村から入所不承諾通知などの通知がなされている場合) - 子どもの養育を行う予定であった者が死亡、負傷・疾病等、離婚等により、それができなくなった場合
3-2 産休中・育休中にもらえる手当
産休中・育休中は基本的に給料が出ません。勤め先によっては産休中・育休中に給料の何割かを出す所もありますが、数としてはほんの一握りなため、期待しない方が良いでしょう。他方、国は手当金を用意してくれています。以下に、具体的な手当を紹介します。
3-2-1 産休期間の手当は出産育児一時金と出産手当金
産休時の手当として、出産育児一時金と出産手当金があります。
出産育児一時金は、出産による家計の負担を軽減するための制度で、健康保険加入者、また加入者の配偶者全員を対象として子ども1人につき50万円(2023年4月施行)支給されます。申請や受給に関しては、直接支払制度*を利用するケースが多いです。
出産手当金は、出産のため働くことのできない産休期間の生活をサポートする制度で、社会保険加入者を対象として、産休(産前休業・産後休業)中に標準報酬日額*の3分の2が支給されます。
3-2-2 育休期間の手当は育児休業給付金と児童手当
育休時の手当として、育児休業給付金と児童手当があります。
育児休業給付金は、育児のため働くことのできない、育休期間の生活をサポートする制度で、雇用保険加入者を対象として、育児休業開始日~180日目までは、休業開始前の賃金の67%、181日目~育児休業終了日は50%が支給されます。
児童手当は、15歳以下の子供を扶養する保護者等に対し給付金を支給する制度で、3歳未満の子ども1人につき1万5千円/月が支給されます。
育児休業給付金は、2ヶ月ごとに申請が必要です(1ヶ月でも可能)。2ヶ月の期間が過ぎた後に申請しなければならず、申請できる時期が決まっています
*標準報酬月額:おおよそボーナスや手当て込みの年収を12で割った額
*標準報酬日額:標準報酬月額の30分の1
*直接支払制度:出産育児一時金の額を上限として、本人に代わって医療機関等が健康保険組合に出産費用を請求する制度です。このため、医療機関等の窓口で支払う出産費用は出産育児一時金の額を超過した額のみとなります。
3-3 産休・育休の申請は勤め先の病院に確認する
産休の申請は出産予定日の6週間前から請求すれば取得可能です。手続き自体は病院の定めによります。
育休の申請は法律で休業開始予定日の1ヶ月前までと定められているので、産後休業に続けて育休をとる場合は、産前休業に入る前や産前休業中に申出を行うことになります。申請は、休業開始予定日や終了予定日などを明らかにしておく必要があります。詳しくは勤め先の病院に確認することをお勧めします。
4 基本的に産休に入るまで仕事を続けた方が良い
母子の安全が第一となりますが、経済的な理由で可能な限り産休に入るまでは仕事を続けた方が良いです。
産休まで入った場合、退職の意思がなければ、育休自体は取得可能となります。その場合、育児休業給付金も受け取ることができるため、産休前に退職した場合と比較して、育休期間を含めた手当ての額は大きく異なります。
育休というのは復帰を前提とした制度のため、実際に復帰したかどうかではなく、復帰する意思表示があれば取得することは可能です。実際に復職するか退職するか悩んでいるのであれば、取得することをお勧めします。
例:標準報酬月額が30万で産休14週間、子ども1歳まで育休までとった場合の概算(2023年4月〜)
- 産休に入らない場合
→ 出産一時金(50万) + 出産手当金(0円) + 育児休業給付金(0円) + 児童手当(18万) = 約68万円 - 産休まで入る場合
→ 出産一時金(50万) + 出産手当金(約65万) + 育児休業給付金(約180万) + 児童手当(18万) = 約313万円
5 看護師が安全に産休・育休をとるための3ステップ
表2は日本医労連が看護職員33,402人を対象に行った調査(2017年)の内容ですが、一般の女性労働者と比較して、看護師の切迫流産・早産のリスクが高い傾向にあります。看護師は長時間勤務や夜勤など物理的負担が多く、切迫流産になる確率が高いといわれています。
当然、母子の安全が最も大事であることは言うまでもなく、退職することを考える方もいらっしゃるとは思いますが、4で説明したように、基本的には産休に入るまで仕事を続けた方が良いのも事実。
ここでは、看護師が安全に産休・育休をとるために踏むべき3ステップを紹介していきます。
表2.2017年看護職員の労働実態 調査結果報告書
(参照:看護職員の労働実態 調査結果報告 – 医労連)
5-1【Step①】妊娠発覚後はすぐに上司に報告し仕事内容や今後について相談をする
妊娠が分かったらすぐに、職場の上司に報告し仕事内容や今後について相談しましょう。
病院の看護師はシフト制であるため、仕事の調整や夜勤の調整などは、同僚看護師への影響は非常に大きいです。例えば、夜勤については、労働基準法上、妊娠しているからという理由で免除される訳ではありません。実際の業務内容の調整については、あくまでも職場との相談になります。妊娠後は、*妊婦健康診査を定期的に受ける必要があり、職場はそれに必要な時間の確保をしなければなりません。
早ければ早いほど、上司が今後の仕事内容やスケジュールについて調整できる時間が増えるため、すぐに報告しましょう。
【職場が受診のために確保しなければならない回数】
・妊娠23週までは4週間に1回
・妊娠24週から35週までは2週間に1回
・妊娠36週以後出産までは1週間に1回
・医師等がこれと異なる指示をした場合はその回数
【勤務しなかった日・時間の給与】
・有給か無給かは、会社の定めによります。
5-2【Step②】相談での解決が難しい場合は母性健康管理指導事項連絡カードを活用
職場によっては、身体的な負担について十分に配慮されないケースもあります。もし、十分な配慮がなされているのであれば、表2のような看護師が他の職種に比較して切迫流産・早産のリスクがあるという結果にはならないのではないかと思います。
妊婦に対しての理解が乏しかったり、人手が足りない、職場内での不仲など理由は様々かと思います。
「身体が心配で負担を少なくしたい。。でも、なかなか言えない。。。」そんな看護師さんも多いのではないでしょうか。
そんな時は、母性健康管理指導事項連絡カード(以下、母健連絡カード)の活用をお勧めします。母子手帳の最終ページにあることが多いようです。母健連絡カードは主治医等が行った指導事項の内容を、妊婦である女性労働者から事業主へ的確に伝えるためのカードのことです。母健連絡カードの記載内容に応じ、事業主は適切な措置を講じる義務があります。
以下は厚生労働省ホームページの記載内容を参考にしています。
【母健連絡カードの使い方】
- 妊娠中及び出産後の健康診査等の結果、通勤緩和や業務内容、休憩、勤務時間の短縮などの措置が必要であると主治医等に指導を受けたとき、母健連絡カードに必要な事項を記入して発行してもらいます。①②
- 女性労働者は、事業主に母健連絡カードを提出して措置を申し出ます。③
- 事業主は母健連絡カードの記入事項にしたがって時差通勤や休憩時間の延長などの措置を講じます。④
図2:母性健康管理指導連絡カードの使い方
(引用:母性健康管理指導事項連絡カードの活用方法について|厚生労働省)
5-3 【Step③】どうしても続けるのが難しい場合は傷病休暇を取得するのも手段
仕事内容の調整だけでは続けることが難しい場合は、産前休暇まで傷病手当を取得することも考えましょう。
傷病休暇とは、病気やケガのために取得する休暇のことです。妊娠に伴う休暇は、プライベートの病気やケガで休む時の私傷病休暇に当たります。傷病休暇の詳しい内容は、社会保険組合ごとに定められており、利用する前にその内容や手続き方法について、病院の総務などで確認しましょう。取得できる期間も会社によって異なりますが、産前休暇まで取得できるケースが多いです。
6 まとめ
産休・育休ともに、労働基準法上で認められた労働者の権利のため、看護師も職場や職業関係なく取得することができます。看護師は長時間勤務や夜勤など物理的負担が多く、切迫流産になる確率が高いと言われており、安全に産休・育休に入るために、職場の協力と制度を上手く活用していくことをお勧めします。
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