読めば分かる!今更聞けない在宅医療の基本と知られていない7つのこと
「在宅医療」という単語の意味を在宅医療を知らない人に説明できますか?
実は、在宅医療という言葉自体、一般への認知度も低い上に、在宅医療を全く知らない人に説明できるほど基礎知識を備えている医療職従事者も、実は少ないかもしれません。
新潟県で実施された在宅医療の認知度調査では「在宅医療という言葉は聞いたことはあるが、どんなものかは分からない」と答える人が10~40代では約50%おり、なかには「在宅医療という言葉を知らない」という回答も見られたと言います。また、70代以上になると認知度はさらに低いこともこの調査(※1)で明らかになりました。
一部の地域での調査であるとはいえ、在宅への移行が推奨されている昨今「在宅医療」の認知度が低いことは、見過ごすことはできない結果ではないでしょうか。
「在宅医療」の言葉や制度を知り尽くすべき!とは言いませんが、
在宅医療の中心的な存在は、患者さん(利用者さん)であり、看護師でもあるからこそ、在宅医療について包括的に、どんなものであるかを知っておく必要がある
と考えます。
とはいえ、ネット上を検索しても在宅医療の言葉自体の説明は簡単に探せるものの、広義の意味での在宅医療(訪問診療、訪問看護、訪問リハビリなど)について包括的に解説された内容はあまり多くなく、かつ在宅医療に関する用語や業界のことなどを、ある程度知っている前提で書かれている記事が多いと思います。
そこで、今回の記事では、在宅医療についての理解を深めるべく、在宅医療の基礎の基礎として「在宅医療と言われるサービスは何か」「それぞれがどんなサービスをしてくれるのか」といったことを解説していきます。
今、在宅医療について興味を持っている方、今すぐではないが在宅医療に従事したい方に向けて、最後まで読んでいただくことで「在宅医療とは何か?」を説明できるよう言葉を選んで書きました。ぜひ最後までお付き合いください。
※1 一般財団法人地方自治研究機構 調査研究部 図書・資料担当者(2016)「在宅医療に取り組みやすい環境づくりに関する調査研究」, <http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/004/pdf/h27/h27_06_05.pdf> 2019年12月24日アクセス.
目次
1 通院困難でご自宅等で受ける医療サービス全般が「在宅医療」
在宅医療とは、病気や障害などで身体機能が低下しており通院が難しくなった時や、退院後も自宅等で継続的に医療を受けることを言います。
厚生労働省の資料等で在宅医療とは何か?という定義づけされた資料は現時点(2019年11月26日時点)では見つけられませんでした。しかし、厚生労働省が在宅医療の啓発のために作成した「在宅医療に関する普及・啓発リーフレット」(※2)の中では、在宅医療とは「自宅等で受ける医療」とシンプルな一言でまとめられています。
※2 厚生労働省「在宅医療に関する普及・啓発リーフレット」, <https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061944.html>
1-1 在宅医療を利用する患者さんは自宅での療養を望む方
在宅医療では、通院が困難で自宅での療養を望む方が対象と記載しましたが、実際にどんな方が利用されているかというと、病気や障害があり、通院が困難な方の他に、積極的な治療を望まないときも利用することができます。
例えば、医師が定期的に訪問をする「訪問診療」の対象患者さんのデータでは、利用者さんの
①85%以上は要介護状態
②基礎疾患は多様だが、特に循環器疾患・認知症・脳血管疾患を抱える患者の割合が大きい
③別表7に規定する疾病等に該当する患者は全体の15%程度
④療養している建物に家族等が住んでいる人は18.7%で、約8割は家族と離れて暮らしている
という割合を発表しています。(※3)
※別表7とは…長期にわたって医学管理の必要性が高いと評価される疾病・処置等が項目訳されており、別表7は在宅患者訪問診療料において週4回以上の訪問診療が可能とされている。代表的な疾病は、末期の悪性腫瘍や多発性硬化症、パーキンソン病関連疾患等があります。
※3 厚生労働省「在宅患者の状況等に関するデータ 」
1-2 在宅医療は”患者さん中心医療”
在宅医療は患者さんが中心の医療と言い換えることができます。在宅で過ごすことと、入院先で過ごすことの違いは、他の記事でも触れられているので詳細は割愛しますが、特に看護師が理解しておきたいのは在宅医療は患者さんの要望や意向を尊重する「患者さん中心医療」であるということです。
病院の場合、治療を目的とした生活を行うかつ、多くの場合他の患者さんと共に生活するため、入院先の規則に従った生活をします。起床、食事の時間、消灯時間も決まっていますし、活動も制限されます。
一方、在宅で過ごす場合はそうした規則に縛られることなく、療養生活を送ることができます。
「家で、子どもや孫たちと一緒に奥さんの手料理が食べたい」
「最期をペットと一緒に過ごしたい」
というような療養の願いを叶えられるよう、関係者たち全員が環境調整に徹します。
看護師を始めとした医療従事者は日々、患者さんの思い、考え、生き方、意思決定を尊重すること、そして在宅という限られた環境の中で、患者さんの人生と真っ向から向き合い、ベストを尽くしています。
訪問看護とは?興味を持ったら最初に知っておくべき6つの基本を徹底解説!
1-3 在宅医療は必ずしも治療や治癒が目的ではない
患者さんが在宅医療を選択するときは、治癒が目的ではなく、療養するためであり、在宅医療のゴールは患者さんそれぞれです。
例えば、骨折して入院、退院後自宅でリハビリを続けて、1人で生活できるようになるというゴールもあれば、がん末期で自宅で大好きな家族と共に最期を過ごす、胃ろうをつけず、自分の口から食べられなくなったら、そのときは自宅で最期を迎える、というゴールの方もいます。
目指すゴールが様々であるがために、正解の無い問いに向き合わなければならない時もあります。
例えば、胃ろうをつけた利用者さんが「最期はどうしても家族の手料理が食べたい」と訴えたときに「誤嚥性肺炎のリスクが高いのでやめましょう」という意見と「誤嚥性肺炎のリスクはありますが、こういう食べ方ならいリスクが少ないと思いますよ」という意見。利用者さんが1日でも長く在宅で療養することを思う前者の答えもあれば、在宅医療の現場では、その人が望む、その人らしい家での過ごし方を叶える後者の意見も尊重されます。
2 幅広い在宅医療サービスを知るための在宅医療業界
在宅での医療関連サービスは多数あります。医師または歯科医師の指示のもとに行われる在宅医療は下記が上げられます。本章では、在宅医療サービスにおける「訪問診療」のほか、主治医の指示のもとに行われる「訪問看護」「訪問リハビリテーション」「訪問薬剤指導」「訪問栄養指導」の4つについて紹介します。
在宅医療で受けられる | 訪問に行く職種 | 内容 |
訪問診療 | 医師 | 通院が困難な方のご自宅等で診療を行う |
訪問看護★ | 看護師 | ご自宅等に訪問し、処置や療養中の世話・看護等を行う |
訪問リハビリテーション★ | 理学療法士 | 通院が困難な方のご自宅等に訪問し、 |
訪問薬剤指導★ | 薬剤師 | 通院が困難な方のご自宅に訪問し、 |
訪問栄養指導★ | 管理栄養士 | ご自宅に訪問し、病状や食事の状況、 |
訪問歯科診療○ | 歯科医師 | 通院が困難な方のご自宅に訪問し、 |
※2を参考に作成
★は主治医による指示のもとにサービスが提供されるものを示す
○は歯科医師の指示のもと行われる
2-1 在宅クリニック等の医師が行う「訪問診療」
訪問診療とは、予め決められた日程に医師が定期的に訪問・診察をすることを言います。クリニックや病院での診察と行うことは変わらず、体調の変化がないかどうか、処方した薬剤の効き目などを確認するといったこともあります。
訪問診療を行う医師は、街のクリニックや病院に在籍しています。地域のクリニックの場合、訪問診療だけを行うクリニックもあれば、外来も兼ねた訪問診療クリニックもあります。病院の場合は、退院する患者さんが療養先で引き続き医療を受けられるように、訪問診療を行なっていたりします。
訪問診療の頻度はおおよそ月1~2回となります。医師が訪問しない間は、医師の指示のもと、療養上の世話を行う「訪問看護」と連携し、訪問看護師が医師の指示のもと、在宅療養する利用者さんの生活を支えます。
この時、訪問診療の医師は、在宅での療養に対して、訪問看護などの在宅医療サービスの指示を出す「主治医」となるケースもあります(訪問看護については次に詳しく触れます)。
病院と自宅での療養の違いは「実際働いた私が訪問看護の仕事内容を病院と比較しながら徹底解説!」で詳しく解説しています。
在宅医療に携わる看護師として働くなら、訪問診療の医師や主治医との連絡のやり取りが最も多くなります。病院であろうと自宅等であろうと、医師の指示のもとに動くということには変わりはありません。
主治医とは「患者の診療に主たる責任を有する医師のこと」(※4)
かかりつけ医とは「健康に関することを何でも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師のこと」と定義されていますが(※)5、主治医とかかりつけ医が同義とされている記事もあり、実際には混同された状態と言えるようです。
在宅医療においては、訪問診療を行い、訪問看護等へ指示を出す医師を「主治医」と呼びます。しかし、病気を複数もつ患者さんにとっては、糖尿病の主治医は●●病院の△△先生、膝のことなら□□大学病院の××先生が主治医、ということもあり、病気に応じて主治医を決めていることもあります。
※4 学校法人慈恵大学「指導医・主治医・上級医・担当医の定義と役割」, <http://www.jikei.ac.jp/boshuu/kensyuu/katsushika/teigi_and_yakuwari.html>
※5 公益社団法人 日本医師会「かかりつけ医を持っていますか?」, <https://www.tokyo.med.or.jp/citizen/counseling/primary_care>
2-2 訪問看護ステーションが担う看護とリハビリ
主治医の「指示書」の指示期間・内容のもと、訪問看護ステーションから看護師等がご自宅等に訪問し、療養上の世話や診療の補助等を行うのが「訪問看護」です。
訪問看護ステーションは、在宅クリニック/病院と連携し、24時間対応で利用者さんの療養生活を支えるほか、たん吸引の方法を家族に教えたりすることもあれば、看取りの場面においてはエンゼルケアを施すこともあります。
訪問診療は月1~2回の頻度ですが、訪問看護ステーションでは条件によって1日複数回訪問することもでき、療養生活中の利用者さんやご家族と、最も顔をあわせる機会が多いポジションです。
そのため、利用者さんやご家族の要望や変化をキャッチしやすく、ときに主治医やケアマネジャーらに、療養生活の方針に進言することもあります。
2-2-1 PT・OT・STも療養生活を支える重要な在宅の担い手
訪問看護ステーションには看護師等だけでなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といったリハビリテーション職員が在籍している場合もあり、リハビリは療養生活を支える上で、自立した生活を取り戻すための重要な役割があります。
例えば、入院中でのリハビリでは足りず、自宅に戻った後もしっかりとリハビリを行いたいと希望を持つ利用者さんも多く、脳卒中等による歩行機能の回復を目指される方も多くいらっしゃいます。
また、高齢者にとっては転倒はADL低下を招き、認知症を進行させる要因になってしまうことから、骨折等からの退院後、足腰を支える筋力トレーニングなどを理学療法士と共に励んだりする方もいます。
さらに、最近では言語聴覚士の在宅医療での活躍が期待されています。
言語聴覚士によるリハビリは、単に誤嚥性肺炎の予防にとどまるだけでなく、認知症予防や転倒予防にもつながると言われているためです。
また、胃ろうを作って退院される方の中には、在宅では食事を口から摂ることを目指しリハビリに励む方もおり「好きなものを家族と一緒に食べる」という喜びに、療養生活のQOLを高めることが期待されています。
2-3 地域の医療機関や施設が行う訪問リハビリテーション
病院や地域のクリニック、介護老人保健施設などが行う訪問リハビリテーションも療養生活を支えている重要な役割を担っています。訪問看護ステーションと同じく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がリハビリを担っており、移動や歩行、移乗、姿勢の保持、トイレ動作などのリハビリを行います。
利用者さんにとっては、通い慣れた地域のクリニック等の医師の指導のもとでリハビリテーションを依頼できるので、日頃から自身の状態を把握してくれているという安心感もあります。
前述したように、訪問看護ステーションでもリハビリテーションは行われていますが、リハビリテーションだけ医療機関等の理学療法士等が行う場合、訪問看護師との連携がとても大切と言われています。
まずは、担当者会議等での顔合わせ、訪問看護計画書・報告書のやり取りや、疾病に関する情報共有等が必要になります。
2-4 薬剤師も在宅で活躍!訪問薬剤管理指導
訪問薬剤指導は、薬剤師がご自宅等を訪問し、通院が困難な利用者さんへ、処方医の指示のもと、薬歴管理、服薬指導・支援、服薬状況や保管の状態、残薬量の確認などを行い、訪問した結果を処方医やケアマネジャーに報告することも含めた、在宅での薬の管理全般を担う在宅医療のサービスです。
独居で薬を一人で取りに行けないといった方のほか、がんの末期で麻薬が必要な方や、精神疾患の方等で薬の管理が特に必要な方を訪問し、薬を届けることもあります。
疾病や処方される薬にもよりますが、薬剤師の訪問は月に1~2回程で、その間の服薬管理は訪問看護、服薬介助は訪問介護が担います。
利用者さんと接する機会の多い訪問看護師は、服薬のことを薬剤師に確認・提案する機会があります。
例えば、精神疾患の利用者さんで、薬を大量に飲んでしまう方の場合、利用者さんの目につかないところで、薬剤師と訪問看護師だけが知っている薬の保管場所を確認したり、高齢の利用者さんであれば看護師の方から「薬を飲みづらそうにしているから、粉砕できないか?」といったような提案を薬剤師にすることもあります。
多数の不調を抱える方ほど、処方される薬の数や種類が多くなり、飲み忘れが多くなってしまったり、または飲み合わせに悩んでしまうようなこともあります。薬剤師と訪問看護師の連携することで、利用者さんの状態や生活に合う薬の飲み方を考えていくことができます。
参考:日本薬剤師会「在宅医療における 薬剤師の役割と課題 」, <https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000zap2-att/2r9852000000zatv.pdf>
2-5 今後の活躍に期待がかかる訪問栄養指導
医師がご自宅での栄養・食事の管理が必要と判断した場合に、管理栄養士が訪問し、栄養・食事に関する指導を行う在宅医療サービスです。がん患者さんや、糖尿病があって食事指導が必要な方等へ、食事の管理・指導を行います。
例えば、療養中に体重が減ってきたため、管理栄養士が訪問して、ご家族とともに食べられる形状の食事を作ったり、食べられる食品と調理法等をアドバイスしたりもします。
噛めない・飲み込めないといった嚥下のトラブルを抱えていることにより、栄養がとれていないといったケースもあることから、言語聴覚士との連携で、在宅療養中の食事の悩み解決に貢献すると期待されています。
しかし、管理栄養士が訪問することによって得られる診療報酬の点数は高いとは言えず、管理栄養士の安定した雇用を維持するだけの報酬が見込みづらいことから、在宅医療での管理栄養士の活躍はまだ進んでいないという見方もあり、今後の活躍が期待されています。
参考:公益社団法人 日本栄養士会(2015)「地域における訪問栄養指導ガイド 」, <https://www.dietitian.or.jp/data/report/h26-2.pdf>
3 在宅医療の理想的な仕組みが「地域包括ケアシステム」
在宅医療の理想的な仕組みとして、地域包括ケアシステムという仕組みがあります。地域包括ケアシステムとは、病気や障害があっても、住み慣れたご自宅等で過ごしていくために、国が、団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される仕組みのことをいいます。
前述した在宅医療サービスのほか、介護や行政が取り組む予防や生活支援のことも含まれます。
地域包括ケアシステムは全国各地で取り組まれています。地域別での取り組みを確認することができるので、ぜひお住まいの地域包括ケアを確認してみてください。
厚生労働省「地域包括ケアシステム構築に関する事例集 」, <https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/chiiki-houkatsu/>
3-1 在宅医療と連携が大切!在宅介護サービス
在宅介護サービスには、訪問介護、訪問入浴、福祉用具などがあります。
介護保険下でこれらのサービスを利用する場合、導入やスケジュール等は、担当のケアマネジャーが作成したケアプラン(どんなサービスを、いつ利用するかの月間利用スケジュールのようなもの)にそって提供されます。
地域包括ケアの実現のためにも、在宅医療と在宅介護の連携は大切と言われてきていますが、在宅医療・介護を支える職種同士は、ガラスの壁があるかのごとく、なかなか連携できない(したくでもできない)といった課題もあると言われています。介護士は「医師にはなんとなく連絡しづらい」「看護師の専門用語が難しいが質問しづらい」といったこともあれば、看護師からは「介護士に説明するのが大変」ということもあるようです。
在宅医療と介護の連携は、地域包括ケアにおける中で兼ねてより重要性が叫ばれているテーマです。将来、少しでも在宅医療で働きたいと考えているのであれば、多職種とのかかわり合い、どんなことを学び、何を大切にしてきたかを聞いてみるなど、職種としての価値観を知り合うためのチャンスを得るようにしておくと良いかもしれません。
3-2 予防を担う行政サービス
行政ではフレイルや認知症予防等に取り組み、教室を開いたり、イベントを開催するなどして、健康寿命延伸のための啓発活動をしています。というのも、人と会わなくなったり、運動する機会が減るといった活動力の低下がADLや認知機能の低下を引き起こすこと要因でもあると言われているからです。
地域のコミュニティに属し、楽しみを見つけ、活動力を上げてもらうことで、将来の介護予防にもつながると期待されます。
例えば、一定の年齢に達した方へ認知機能チェックを無料で行なったり、ウォーキングイベントを開催するといった催しもあります。
特に、東京都港区の介護予防総合センター「ラクっちゃ」の催しは、60歳以上の港区民が対象ですが、対象世代でなくともそそられる、面白そうな教室ばかりです。この機会に、自分の住む街の介護予防の取り組みを調べてみてもいいかもしれません。
訪問診療や訪問看護の需要は確実に増え続けることは予測されていますが、それを担う医療従事者の数は足りないと言われています。
そのため、行政等では予防・啓発活動に取り組むことによって、健康寿命の延伸に貢献できるよう努めています。
4 在宅医療についてあまり知られていない7のこと
在宅医療についてはまだまだ知られていない、現場にいる人だけが知っていることも多くあります。
いつか在宅医療に携わるかもしれない読者だからこそ知っておいてほしい、在宅医療、特に訪問看護に関連する話題をまとめました。
4-1 救急車を呼ぶ=延命治療を受け入れる、とも限らない
在宅で療養されている、人生の最終段階にある方が急変した際、ご家族や親族の方等が救急車を呼ぶことで、本人が望まない蘇生や処置を受ける、ということも少なくありませんでした。しかし、2019年の12月東京消防庁は、一定の要件を満たした場合において、心配蘇生の不実施(DNAR)導入を発表しました。
救急隊員は、あらゆる手段をつかって蘇生することを目指し出動していますが、現場に駆けつけると「やはり本人の希望通り、処置は希望しない」というようなケースが増えてきていることで、この取り決めが採用されました。今後、この制度の導入は各地で広まると見られていますが、現在(2019年12月時点)のところは東京消防庁のみのようです。
参考:東京消防庁(2019)「心肺蘇生を望まない傷病者への対応について」, <https://www.yurokyo.or.jp/pdf.php?menu=item&id=2505&n=1> 2019Y年12月24日アクセス.
4-2 在宅医療は家族の「介護力」次第のときもある
住み慣れた場所での最期を叶えることは、在宅医療に関わる医療者たちの力以外に、生活を共にするご家族等の介護力も非常に大きく影響します。
介護力とは、ご家族が「家で看取る」という思いの強さや、看護・介護に充てられる時間的・経済的ゆとり、キーパーソンのご年齢や生活スタイル、ご家族・ご親族等のサポート体制などによって、介護力の強弱が示されます。
介護力の強弱が良い・悪いではありません。強弱がある上で「弱い」場合はどう補っていくのかを考え、在宅サービスを組み立てていくことが大切です。
4-3 家族が出来る医療の補助行為がある
医行為は医師のみが行うものですが、一部の医行為については、医師以外の看護師や介護士、家族ができるものもあります。そのため、在宅での医療行為は家族が行えるものもあります。
2005年、「医行為」ではないと考えられるものとして下記などが上げられると厚生労働省が医師法の解釈を示しました。
医行為ではないと考えられるもの
- 腋下外耳道体温測定
- 自動血圧測定
- パルスオキシメーター装着
- 軽微な傷のガーゼ交換
- 軟膏塗布
- 湿布貼付
- 点眼
- 鼻腔噴霧
- 一包薬・舌下錠の内服
- 座薬挿入
- 爪の手入れ
- 口腔清掃
- 耳垢除去
- ストーマ排泄物の処理
- 自己導尿補助
- 市販薬浣腸 など
引用:東京都医師会「3 看護師や介護職員の医療(補助)行為について 」
たんの吸引や胃ろうの栄養剤の交換、インスリン注射もこれにあたることから、医師や訪問看護師がやり方を家族へ伝え、家族がケアを行うこともあります。
こうしたケアを家族ができるようになることで、訪問看護師や介護士の訪問時間や日数を減らすことができたり、外出のときでもご家族が対応できるようになるといったメリットがあります。一方で、家族の負担が大きくなりすぎていないかどうか配慮することも大切です。
4-4 在宅医療が日本で始まったのは1986年でまだ33年の歴史しかない
現在の「訪問診療」の概念が保険診療の下に導入され、国としても在宅医療を推進し始めたことから、1986年は在宅医療が誕生した年とも言われています。
一般の方の在宅医療の認知度は「言葉は聞いたことはあるけど実際どんなものかは分からない」と答える人が10~40代では約半数にのぼるという調査(※2)もあり、まだまだ在宅医療の認知度は高いとは言い切れないかもしれません。
ちなみに、訪問看護においては「在宅看護論」が看護師養成課程のカリキュラムに導入されたのは1997年であることから、看護師たちが訪問看護を学び始めてからは、ようやく22年が経過したところとなっています。
4-5 自宅で亡くなる人は約13%で依然として少ない
自宅で療養を希望する方は多く、療養先として「自宅」を挙げる人は60%以上と言われ、国は在宅医療の推進のい必要性を感じています。しかしながら、自宅で亡くなる方の割合は13%程と言われ、他国と比較しても病院で亡くなる方が依然として多いと言われています。
参考:厚生労働省(2017)「【テーマ1】 看取り 参考資料」, <https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000156003.pdf> 2019年12月24日アクセス.
4-6 在宅医療の中心的担い手は訪問看護師
在宅医療サービスは医師の指示のもとに行われるため、医師だけが在宅医療の中心にいるように見えるかもしれませんが、在宅医療では医師の存在と同じくらいに訪問看護師の存在が要になります。誤解を恐れずにいうならば、在宅医療の中心的な担い手は訪問看護師ということもできます。
というのも、実際に利用者さんやご家族と顔を合わせる頻度が高いのは訪問看護師たちだからです。
利用者さんやご家族の小さな変化、要望をキャッチし、療養生活をより良いものにしていくために、提案をしたり、さまざまな職種と連携するといった、コミュニケーションの部分も担うことができるのが訪問看護師。訪問看護師の活躍があってこそ、在宅医療は成り立つと言えるのかもしれません。
4-7 訪問看護師は看護師全体のうちたったの2.6%
訪問看護師は看護師全体のうち2.6%の約4万人あり(2013年時点)、2025年までに15万人まで増やす必要があると言われています。訪問看護師の平均年齢は47歳というデータもあり、経験年数がなければ務まらないとも言われていましたが、最近では看護学生時代の訪問看護実習の影響もあってか、20~30代のうちから訪問看護に興味を持ち、訪問看護師として働く方も増えてきています。最近では新卒の看護師も訪問看護師になれるよう、教育カリキュラムを組むステーションも出てきています。
もし友人・知人で訪問看護師の方がいたら、とても希少な看護師とも言えますので、実際に働いてみた感想や実態を聞いてみると、在宅医療での看護師の関わり方のイメージがつきやすいかもしれません。
参考:一般社団法人 全国訪問看護事業協会「訪問看護アクションプラン2025」, <https://www.jvnf.or.jp/2017/actionplan2025.pdf>
まとめ
在宅医療は、通院困難で自宅で受ける医療サービス全般のことを指し、在宅医療の一般的なサービスと、それに携わる職種との関わりを解説してきました。
まだまだ一般への認知度も低く、携わる医療従事者も少しずつ増えてきてはいますが、今後日本の医療は病院から在宅への流れが一層加速していくことを受け、今こそ多くの人が在宅医療について知るべき時期と思います。
本記事が少しでもその参考になりましたら幸いです。
コメント