地域包括ケア病棟に入院する前に知っておきたい6つのことを徹底解説
「地域包括ケア病棟」は2014年の診療報酬改定にともない新しく設立された自宅での生活に自信をもって復帰してもらうための支援を行う病棟です。2022年4月時点において地域包括ケア病棟を届け出た病院数は全国で2,751病院となっており、2014年以降この病棟を設置する病院数・病床数はともに増加傾向にあります。(参照:一般社団法人_地域包括ケア病棟協会_厚生労働省・記者会見資料)
広がりを見せる地域包括ケア病棟ですが、設立されてから日が浅いということもあり医師に勧められても入院すべきかどうか判断しかねるという患者さんも多いでしょう。患者さんの不安を少しでも解消するには地域包括ケア病棟について患者目線での知識を身に付けることが大切です。
今回は地域包括ケア病棟について入院になるケースや入院費、患者さんにとってのメリット・デメリットといったポイントをご紹介します。
不安や疑問を感じている患者さんに地域包括ケア病棟での入院生活をイメージしてもらえるように患者さん側がほしいと考えている知識を身に付けましょう!
目次
1 地域包括ケア病棟とは
入院された患者さんに、状態に応じたリハビリや医療ケアを包括的に行い、自宅での生活に自信をもって復帰してもらうための支援を行う病棟を「地域包括ケア病棟」といいます。地域包括ケア病棟と他の病棟及び自宅の関係を示すと下図のようになります。
病気やケガなどで入院した場合、急性期の治療が終わって一般病棟で症状が安定するとすみやかに退院するのが基本です。しかし、必ずしも入院が必要ではないものの、入院してリハビリや医療ケアを受けたほうがよいと考えられる患者さんも少なくありません。この時、選択肢として地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟の2つの選択肢が出てきます。主な違いは以下の通りです。
地域包括ケア病棟 | 回復期リハビリテーション病棟 | |
目的 | 在宅復帰 | 機能改善 |
疾患 | 全ての疾患が対象 | 急性期治療を終えて 安定した患者さん |
リハビリ | ほどほどにリハビリ | 集中的にリハビリ |
「急性期の治療が終わった患者さんが入院して自宅での療養生活をめざす」という点でいえば回復期リハビリテーション病棟も似たような役割をもっています。しかし回復期リハビリテーション病棟は脳血管疾患や胸部・腹部の手術といった比較的大きな手術を行った患者さんに対して機能改善を中心に集中的にリハビリを行う病棟です。
一方、地域包括ケア病棟は病気やケガの内容を問わず入院可能であり、それぞれの患者さんに応じたケアを行います。どちらも自宅療養を目指すという点では同じですが、より専門的なリハビリができる回復期リハビリテーション病棟に対し、地域包括ケア病棟はより幅広い病状の患者さんに対応できるといえるでしょう。(参照:リクルートドクターズキャリア 増える「地域包括ケア病棟」デビュー )
2 どんな場合に地域包括ケア病棟へ入院となるのか~急性期病棟からの転棟が1番多い~
地域包括ケア病棟に入院することになる経緯は患者さんによってさまざまですが、大きく次の5つのケースが考えられます。
①肺炎や骨折、手術をともなう病気などで入院し急性期の処置によって状態は安定したものの、しばらく治療や経過観察などが必要な場合
②入院による治療で状態が安定し、自宅や介護施設などでの療養生活への復帰に向けたリハビリが必要な場合
③自宅療養での準備を必要とする場合
④自宅や介護施設などで療養生活を送っている方の状態が急に悪くなった場合
⑤自宅療養中に介護を行っている方が休養をとるために患者さんが一時入院をする場合
(参照:東神戸病院 地域包括ケア病棟)
地域包括ケア病棟に入院をすすめられたときの患者さんの状態は、命に危険があったり生活に著しい支障が出たりする状態ではありません。しかし入院して治療やリハビリを受けることがベターな状態と医師が判断した状態です。
急性期の治療が終われば、地域包括ケア病棟には必ずしも入院する必要はないと思うかもしれません。しかし自宅での療養生活をスムーズに開始するためにも地域包括ケア病棟に入院してそれぞれの患者さんに応じたケアを受けることをおすすめします。
3 地域包括ケア病棟の入院費はどれくらいかかるのか~3割負担の場合1日6,000円~8,000円~
地域包括ケア病棟入院料、地域包括ケア入院医療管理料といった入院費は医療施設の設備内容や実績によって1~4までの4つの区分があります。以下の表をご参照ください。
診療報酬点数 (入院費(10割)) | 自己負担額(/日) | ||
地域包括ケア病棟入院料1 (地域包括ケア入院医療管理料1) | 2,738点 (27,380円) | 1割 | 約2,740円 |
2割 | 約5,480円 | ||
3割 | 約8,210円 | ||
地域包括ケア病棟入院料2 (地域包括ケア入院医療管理料2) | 2,558点 (25,580円) | 1割 | 約2,560円 |
2割 | 約5,120円 | ||
3割 | 約7,670円 | ||
地域包括ケア病棟入院料3 (地域包括ケア入院医療管理料3) | 2,238点 (22,380円) | 1割 | 約2,240円 |
2割 | 約4,480円 | ||
3割 | 約6,710円 | ||
地域包括ケア病棟入院料4 (地域包括ケア入院医療管理料4) | 2,038点 (20,380円) | 1割 | 約2,040円 |
2割 | 約4,080円 | ||
3割 | 約6,110円 |
一般的な病棟の場合入院中の医療処置や検査、投薬などの内容に応じて入院費が異なります。一方地域包括ケア病棟に入院する場合、入院費は「地域包括ケア病棟入院料」または「地域包括ケア入院医療管理料」を算定します。入院費は定額で、入院基本料・検査料・リハビリテーション料・投薬料など入院中に必要な処置にかかる費用のほとんどが含まれています。
地域包括ケア病棟入院料と地域包括ケア入院医療管理料の違いは端的にいえば病院の組織体系の違いによるものです。地域包括ケア病棟入院料は病院全体もしくは病棟全体が地域包括ケアを行っている病院の場合に採用されるものであり、地域包括ケア入院医療管理料は病棟の中の一部の病床が地域包括ケアの対象となっている病院の場合に採用されます。
地域包括ケア病棟の入院費は基本的には定額となっていますが、入院中の治療の内容によっては自己負担額が増えることもあります。しかし保険適用内であれば高額療養費制度を利用することができます。自己負担額の上限を超える医療費は負担しなくてもすむので際限なく費用がかかるということはないでしょう。
4 患者さんにとってのメリット・デメリット
患者さんや自宅療養において介護を行う方にとってのメリットやデメリットについて見ていきましょう。
【メリット①】在宅へ復帰する前にしっかりと準備ができる
地域包括ケア病棟に入院する主なメリットの1つとして「退院前に病院で療養したりリハビリを受けたりできる」ということが挙げられます。
例えば、大きな病気やケガで入院している場合でも、急性期を過ぎると早めに退院することが基本です。しかし地域包括ケア病棟に転棟すれば自宅や介護施設で療養生活を送るためのリハビリや医療ケアを受けることができます。「必要な治療が終わったらすぐ退院」という一般的な入院よりも患者さんが安心して在宅復帰できると考えられます。
【メリット②】在宅から一時的に入院できる
病状が悪化しそうなときに早い段階から入院できるという点も大きなメリットでしょう。早めに対処することで治療に必要な期間も短くなることも多いため、患者さんのみならず自宅で介護を行っている方にとっても心強いサポートとなります。
また、自宅療養が難しい病気やケガが起きた場合や介護者が休養をとりたい場合に一時的に患者を入院させることができるという点は介護者にとって大きな魅力でしょう。急性期の病棟よりも入院に関する診療報酬が低く入院費を抑えられるという点にも注目です。
【デメリット①】60日間までしか入院できない
地域包括ケア病棟への入院は多くのメリットがありますが、一方でデメリットも少なからず存在します。その1つとして地域包括ケア病棟の入院期間が挙げられるでしょう。地域包括ケア病棟への入院は原則的に60日以内となっています。この期間内に在宅復帰への目途が立ち、無事スムーズに自宅療養に入ることができればよいのですが、患者さんの状態によっては自宅療養ができるまでに回復していないことも考えられます。期限が来たからといって無理に在宅復帰してしまうと患者さんや介護者の方の負担になってしまいかねません。
また、病院によっては退院後のケアについて60日という短期間では十分に準備できないこともあります。介護施設やケアマネジャーなどとの連携がうまくできていないこともあるため、退院後はどのようなサポートを受けられるかを入院前にしっかりと確認しておく必要があるでしょう。
【デメリット②】急性期病棟ほどの高度な治療は受けることができない
急性期の病棟のような専門性の高い治療や処置は地域包括ケア病棟における基本の入院料の範囲では受けられないこともデメリットの1つといえます。
専門性の地域包括ケア病棟に入院する方の約半数が急性期病棟からの転棟であることからも、この点は入院前に患者さんやそのご家族にきちんと説明することが大切です。
5 9割の患者さんは退院できる~自宅復帰する患者さんの平均入院日数は28.6日~
地域包括ケア病棟の在宅復帰率は90%前後です。つまり、地域包括ケア病棟に来たほとんどの患者さんが退院まであと少しということです。
(出典:中央社会保険医療協議会 総会(第418回)地域づくり・まちづくりにおける医療の在り方について)
もちろん在宅復帰までの入院日数は患者さんの病状や年齢などによっても左右されます。例えば、ある研究では退院後自宅への療養に移行した方の平均年齢が76.1歳であったのに対し、退院後介護施設など自宅以外の場所に移った方の平均年齢は82.0歳という結果が報告されています。高齢になると自宅療養への復帰率はやや低くなると考えたほうがよいでしょう。
また、同報告内で退院後は自宅に戻って療養生活を送ることになった方の地域包括ケア病棟での平均入院日数は28.6日、自宅以外で退院後の生活を送ることになった方の平均入院日数は40.9日という結果も得られています。自宅での生活への復帰が難しいと考えられる方は入院日数が長引く傾向にあるといえそうです。(参照:J-STAGE 地域包括ケア病棟からの転帰先が自宅以外であった 患者の特徴)
6 地域包括ケア病棟に入院中の1日のスケジュール例
地域包括ケア病棟では患者さんの病状に応じてさまざまなケアが行われていますが、回復期リハビリテーション病棟のようにリハビリを重点的に行うわけではなく、在宅復帰に向けた準備も行います。
在宅復帰も近いことからストレスの少ない入院生活であるといえるでしょう。ここでは入院中の1日の流れを簡単に紹介します。
【入院中の1日のスケジュール例】
7 まとめ:地域包括ケア病棟を知って満足いく退院を目指そう!
地域包括ケア病棟は、緊急性は高くないものの在宅での療養に不安がある方やリハビリなどのサポートが必要と医師が判断した方などが安心して自宅などで療養生活を送れるように支援するための病棟です。
入院のための費用や入院期間、在宅復帰率など多くの患者さんや介護者の方が気になるポイントは、こちらの記事を参考にしながら勤務先の医療機関の情報を調べておくことをおすすめします。
患者さんや介護者の方に安心して地域包括ケア病棟へ入院してもらい、満足のいく退院をしてもらうためにも、患者さんたちの役に立つ知識を身に付けておきましょう!
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