認知症ケア専門士の合格率は約50%!傾向と合格のための2つの秘策
直近の認知症ケア専門士は合格率54.7%でした。
これまでの全14回を平均すると、約50%です。
認知症を患った患者さんのご家族から良く質問される例として、以下が挙げられます。
・患者さんに怒っても良いか?
・患者さんが訴える妄想は否定しても良いか?
・患者さんが訴える妄想にはどう対応すれば良いか?
認知症ケア専門士の勉強をすると、こういった質問について、的確に答えれるようになり、ご家族が抱える不安や困りごとに対してもケアできるようになります。
団塊の世代が75歳以上になる2025年には、認知症患者の数は700万人前後に達すると見られています。その介護をする家族を含めると、認知症に関わる人の数は2,000万人を超えます。
患者さん本人に適切なケアを提供するとともに、そのご家族にアドバイスを与える専門家が認知症ケア専門士であり、今後ますます求められる人材となるでしょう。
この記事では、認知症ケアのプロフェッショナルを育成する目的で設置された「認知症ケア専門士」について、資格試験の合格率、合格者数、効率的な学習の仕方を分かりやすく解説しています。ぜひ参考にしてください。
目次
1 過去10年の合格率と合格者数
「認知症ケア専門士」とその上級資格である「認知症ケア上級専門士」の合格率はどれくらいかを見ておきましょう。
1-1 認知症ケア専門士試験の合格率
認知症ケア専門士試験の合格率は、下表のように毎年50%前後で推移しています。
催年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率(%) |
第1回(2005年) | 5,121 | 2,445 | 49.4 |
第2回 (2006年) | 5,313 | 3,449 | 64.9 |
第3回 (2007年) | 6,848 | 3,016 | 44 |
第4回 (2008年) | 8,498 | 5,032 | 59.1 |
第5回 (2009年) | 11,214 | 6,034 | 53.8 |
第6回 (2010年) | 9,282 | 4,188 | 45.1 |
第7回 (2011年) | 8,046 | 3,395 | 42.2 |
第8回 (2012年) | 9,070 | 4,419 | 48.7 |
第9回 (2013年) | 7,533 | 3,715 | 49.3 |
第10回 (2014年) | 6,295 | 3,365 | 53.5 |
第11回 (2015年) | 7,319 | 4,375 | 59.8 |
第12回 (2016年) | 7,467 | 3,983 | 49.3 |
第13回 (2017年) | 6,029 | 3,266 | 56.5 |
第14回 (2018年) | 5,063 | 2,769 | 54.7 |
(引用元:認知症ケア専門士公式サイト)
1-2 受験者数が減少傾向にある理由
認知症ケア専門士試験の受験者数は、2009年の11,214人をピークに減少傾向にあり、2018年は5,063人でした。
その理由としては、合格率が50%前後とかなりの難関であること、受験のために学ぶべき項目・内容が多岐に渡っていることなどが考えられます。
後述しますが、介護事業所に配属義務がある資格ではなく、就職面や待遇面で直接的なメリットがないことも影響しているでしょう。
また、資格は5年ごとの更新制で、そのための受講や更新費用が必要なことも関係しているかもしれません。
1-3 認知症ケア上級専門士の合格率と合格者数
認知症ケア上級専門士の合格率は公表されていません。認知症ケア学会へ問い合わせたところ、合格率は例年50%前後とのことでした。
第11回(2019年)の試験概要を見ると、受験者数150名、合格者数64名で、合格率は42.6%になっています。
認知症ケア上級専門士は、2009年に創設された資格で、ケアチームのリーダーや、地域のアドバイザーとして活躍することが期待される専門士です。
認知症ケア専門士としての経験が3年以上あることなどが受験資格です。
2 認知症ケア専門士の資格を持っている人の職種
認知症ケア専門士の資格を持っているのは、どのような職種の人が多いのでしょうか。
認知症ケア専門医の資格所有者数は、2020年現在約60,000人で、職種別の内訳は次のようになります。(重複含む)
職種 | 人数 |
介護福祉士 | 17,865 |
介護支援専門員 | 13,301 |
介護ヘルパー | 10,044 |
看護師 | 8,756 |
福祉環境コーディネーター | 4,630 |
社会福祉士 | 1,906 |
作業療法士 | 1,506 |
理学療法士 | 626 |
その他 | 5,443 |
合計 | 64,077 |
(引用元:認知症ケア専門士公式サイト)
3 認知症ケア専門士資格の性質
受験者数が減少傾向にある認知症ケア専門士ですが、その資格の性質やメリットを整理して目指すべきかどうか考えましょう。
3-1 国家資格ではなく民間資格
認知症ケア専門士は専門性の高い資格ですが、国家資格ではなく民間資格です。
3-2 配置義務がないため就職には結びつかない
デイケア施設に看護師の配置が義務づけられているような、事業所に配置義務のある資格ではないので、資格取得が直接的に就職に結びつくわけではありません。
したがって、あくまで自己研鑽のための資格、仕事の質を高めるための資格です。
3-3 資格取得のメリット
認知症専門士資格は知名度がある評価の高い資格なので、履歴書に書くことができます。履歴書にその資格が記入されていれば就職に有利になることは確かです。
3-4 認知症ケア専門士に備わる知識とスキル
日本認知症ケア学会が発行している「認知症ケア専門士試験<標準テキスト>」を見ると、専門士に求められている知識が「地域社会での取り組み」まで含む広範な内容であることが分ります。
認知症ケアの実務経験がある人にとっては、テキストの概要(目次)を見るだけで「なるほどこういう知識も必要だな」と納得する項目が多いのではないでしょうか。
標準テキストの概要(目次)は次のようになっています。
【認知症ケアの基礎】
1 人の老いと認知症
2 認知症ケアの理念
3 認知症の人の推移と現状
4 認知症ケアの変遷と課題
5 認知症の医学的特徴
6 認知症の人の心理的特徴
7 認知症の人と社会的環境
8 アセスメントすることの意義と視点
9 認知症のチームケアと担い手
10 認知症予防
【認知症ケアの実際:総論】
1 認知症ケアの原則と方向性
2 認知症ケアの倫理
3 認知症の人とのコミュニケーション
4 情報収集とアセスメントのためのツールの活用
5 認知症のアセスメント・ケアプランと実践
6 認知症の人への在宅支援
7 認知症の人への施設支援
8 認知症の人への医療支援
9 認知症の人と身体拘束・虐待
10 事例報告のまとめ方
【認知症ケアの実際:各論】
1 認知症の医療とケア
2 認知症のケア技術の実際
3 認知症の行動・心理症状(BPSD)とそのケア
4 薬物療法の知識
5 リハビリテーション
6 非薬物療法
7 施設・在宅における環境支援
8 認知症の人の終末期ケア
【認知症ケアにおける社会資源】
1 認知症の人にとっての社会資源とは
2 認知症の人に対するフォーマルケア
3 認知症の人に対するインフォーマルケア
4 認知症の相談窓口
5 地域で認知症の人を支えるために
上記の項目を見ると、認知症ケア専門士には、多くの視点からの広範な知識が求められていることが分ります。受験資格を持つ3年以上の実務経験者にとっても、これまで意識していなかった視点が含まれているのではないでしょうか。
4 資格取得の流れ
資格取得までの流れは次のようになります。
1 | 受験資格を得る | 受験資格: 3年以上の認知症ケアの実務経験 |
2 | 標準テキストで学習する | 日本認知症ケア学会発行の公式テキスト(全5冊) |
3 | 受験対策講座を受講する | 2日間。受講は任意 |
4 | 願書を提出する | 3月上旬~4月上旬 |
5 | 1次試験を受ける | 筆記試験。7月の日曜日 |
6 | 2次試験を受ける | 論述試験(8月~9月に提出)とグループディスカッション試験(12月) |
7 | 合格 | 翌年1月下旬に合格発表 |
8 | 登録申請 | |
9 | 資格取得 | |
10 | 資格更新 | 5年以内に30単位以上の専門士単位を取得する |
4-1 3年以上の実務経験が受験資格
受験資格は、認知症ケアに関する施設や機関で、過去10年以内に3年以上の認知症ケアの実務経験があることです。
4-2 標準テキストは5冊で10,828円
受験勉強のための5冊の公式テキストで、価格は合計で10,828円(税込)です。
内容は先述した「テキストの概要」の通りです。
4-3 試験日、受験場所、受験料
試験は毎年7月の日曜日に、全国5会場(札幌、仙台、東京、名古屋、京都、福岡)で行われます。
受験料は、1次試験が1分野3,000円、4分野で12,000円。2次試験は8,000円です。
4-4 各分野70%以上の正答率で合格
1次試験の問題は各分野50問、 4分野合計200問 で、マーク式の五者択一形式で出題されます。
各分野で70%以上の正答率で合格です。4分野すべての合格をもって、第1次試験合格となります。
各分野の合格有効期間は5年間で、合格した分野は次の受験では免除されます。
5 合格率50%を突破するための2つの秘策
認知症ケア専門士に合格するための基本は、標準テキストを読み込んで、ご自分の実務経験と照らし合わせながら、その内容を理解することです。その上で、次の2つの対策が難関突破の秘策になります。
5-1 受験対策講座を受ける
難関を突破するための秘策は、試験1~2ヶ月前に行なわれる「受験対策講座」の受講です。
この講座では「標準テキスト」をもとに、重要ポイントに的を絞った講義を行います。講義終了後には本番形式の模擬試験を行い、試験終了後には講師が問題の解説を行います。
毎年5月から6月に、関東と関西の2会場で2日間行われ、受講料は15,000円です。(2020年は新型コロナウィルスの影響で、web開催に変更されました)
この講座を受けてから、本番までにもう一度テキストをおさらいすることで、合格率がアップすることが期待できます。
5-2 e-ラーニングを利用すれば合格率90.6%!
有料ですが、e-ラーニングを利用すれば合格率は90.6%です。
働きながら受験勉強をする方が多く、e-ラーニングであれば、隙間時間を利用してスマホで公式テキストの解説を読んだり、問題集を解くことができるため、とても有益で合格率にも直結します。
おすすめは、隙間時間で学習できるように各動画や設問と回答がコンパクトにまとめられている、株式会社アステッキのe-ラーニング講座とアプリ付き問題集のセットです。(セット価格19,800円)(参照:株式会社アステッキのe-ラーニング講座)
その他、問題700問を繰り返し学習できる無料アプリもあります。(参照:速習チェック!認知症ケア専門士認定一次試験一問一答式問題集)
6 5年ごとの更新が必要なことに留意
認知症ケア専門士資格は、「ケアの質を保ち、常に自身のケアを見直すための新たな知識や技術を身に着ける」ために、5年ごとに更新が必要です。
更新するためには、学会が主催または認定する講演会に出席して、あるいは機関誌などに論文を発表することで、30単位以上を取得する必要があります。更新料10,000円です。(参照: 認知症ケア専門士『更新の手引』)
7 まとめ
認知症ケア専門士は、高度高齢化社会の到来を目前に控えた日本にとって必須の人材を養う資格です。
しかしその反面、事業所に配置義務が課せられた資格ではないので、直接就職に有利な資格とはいえません。
したがって認知症ケア専門士は、就職や待遇のためではなく、認知症ケアについての知見を深め、プロとしてのスキルアップを目指す人がチャレンジしたい資格です。
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