終末期の定義は3か月!看護師として重要なリビングウィルと必要な3つのケア
終末期医療とは、「治療が望めない患者さんに対して、苦痛を与える延命医療を中止、人間らしく死を迎えるためのケア」となります。
その中で、看護師として、疾患や症状に対する知識とスキル、患者さんの価値観や生き方を尊重した支援、倫理的配慮、家族支援が求められます。
その上で終末期の定義としてはおおよそ余命3ヶ月ということを念頭におき、生前の意思表明(リビングウィル)の有無を確認することが大切になります。看護師としては身体的・精神的・社会的苦痛のケアが必要となり、終末期医療としての看護ケアが必須になります。
この記事を読むと終末期医療の概要が理解でき、看護師として知るべきことがわかります。
目次
1 終末期医療は延命治療を中止して、尊厳を重視したケア
終末期医療とは、「治療が望めない患者さんに対して、苦痛を与える延命医療を中止、人間らしく死を迎えるためのケア」となります。その中で定義や間違いやすいターミナルケア、緩和ケアとの違いをお伝えしたいと思います。
1-1 終末期の定義はおおよそ余命3ケ月と考えるべき!
終末期と言われると、多くの方が余命3日や1か月と個々に思い描くと思います。実際の定義としては、厚生労働省が出している終末期医療におけるガイドラインに記載されており、以下の3つの条件を満たすことになります。
- 複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
- 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
- 患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること
しかし注釈もあり、「救命救急の場では発症から数日以内の短い期間で終末期と判断されることも多いのですが、癌や難病の末期などでは1~2ヶ月ということもあります。また、重い脳卒中後遺症などでは、数年前からいずれ死が訪れることが予測されることがあるものの、間近な死を予測することが出来るのは容態が悪化してからとなります。したがって終末期を期間で決めることは必ずしも容易ではなく、また適当ではありません。」となっております。
そのため厳密な定義は存在しませんが、多くの文献や資料を鑑みるとおおよそ余命3ヶ月以内を指します!
1-2 終末期医療・ターミナルケア・緩和ケアの違いは難しいがこれで解決
終末期医療とは上記にあるように治療により病気の回復が困難で、延命治療を行わずその人らしい最期を迎える医療になります。
一方、ターミナルケアは終末期医療に近い部分があるものの、本人が治療をやめる決断をし、病気の症状などによる苦痛や不快感を緩和し、精神的な平穏や充実した生活を目指すケアになります。
また、緩和ケアはがんなどの病気の痛みを取り除きながら、あくまでも病気を治療する行為の一環として病気治療と並行して行われることを指します。苦痛を取り除くというベースは同じですが、本人の判断、治療の有無で違ってくるので言葉の違いは理解しましょう。
終末期医療 | 治療により病気の回復が困難で、延命治療を行わずその人らしい最期を迎える医療 |
ターミナルケア | 本人が治療をやめる決断をし病気の症状などによる苦痛や不快感を緩和し、精神的な平穏や充実した生活を目指すケア |
緩和ケア | がんなどの病気の痛みを取り除きながら、あくまでも病気を治療する行為の一環として病気治療と並行して行われる |
2 看護師がまずすべきことは生前の意思表明(リビングウィル)があるかの確認!
終末期医療において一番大切なことは生前の意思表明の存在の有無です。医師が確認する場面も多いですが、病院でも在宅でも多くの時間を接するのは看護師になります。そのためその存在をまずは確認しましょう。生前の意思表示がないために望まない延命治療が行われてしまっているのが実情ですので、看護師として推奨や確認をすることが終末期医療において最も重要なポイントになります。
2-1 生前の意思表明(リビングウィル)がある場合は中身のチェックは確実に
終末期においては、人工呼吸器や経管栄養、補液、抗生剤などの薬物の使用開始と継続が問題となります。
普段から病気の状況に合わせて事前にどのような治療を受けるのか、あるいは治療の継続を中止するのかなどの生前の意思表明を明確にし、文書に残しておく方がよいでしょう。
生前の意思表明を文書として作成する意義は、作成を契機に終末期という状況を自分でよく考え、家族と話し合うことと代弁者を選定しておくことで、将来の混乱を避けることにあります。
そのため、医師、看護師と共に終末期に向けて生前の意思表明を作成できるように促すことが最も重要になります。
生前の意思表明の書式例は以下になります。
<出典:終末期医療におけるガイドライン>
2-2 生前の意思表明がない場合は本人・家族含めて確認が大事
本人の言動を常日頃から知っている家族がおり、患者さんの意思が推測できる場合は、その方から本人の意思を聞きます。この場合、家族は生計を同じくするものとされます。
家族全員の意向を確認することは困難で、家族の中で意見が異なる場合の優先順位に明確な規定がないため、医療のための代理委任状が作成されていれば、代弁者の意思を尊重します。
生前の意思表明が不確かで代弁者が決められていない場合には、治療により回復が期待できない状態と医師が判断した場合、他の医師、看護師等と家族を交えて話し合い、治療を開始しない、あるいは治療を中止することを決めることができるようにすべきです。
この場合、本人との関係が親密であったと推定される方(最近親者)の意向を優先することが現実的です。医療提供者は家族全員が状況を理解し考えをまとめるに当たり、可能な限りそれを支援することが必要です。
治療方針を決定する際は、様式にその経緯(説明者、家族名、代表者名、生前の意思表明の有無、代弁か推察か)及びその理由(終末期の判断根拠や治療の限界に関する説明内容および質問と回答内容、納得と同意)等を記録しておくことが必要になります。
代弁者の考えは変わりやすいこともありますが、その都度記録を行い、最新の意思を検討することが大事になります。
3 看護師がするべきケアは身体的・精神的苦痛・社会的ケアの3つ
終末期医療において看護師がすべきケアは大きく分けて3つになります。身体的苦痛へのケア、精神的苦痛へのケア、社会的苦痛へのケアになります。
3-1 疼痛コントロールは日々の看護師の腕の見せ所!
終末期の患者さんは様々な身体的苦痛に悩まされます。特に「痛み」「床ずれ」「呼吸困難」「排泄障害」が挙げられます。
痛みに関しては、癌性疼痛であればオピオイドなどの麻薬とNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やアセトアミノフェンを痛みの段階に分けて使用します。それ以外では主にはNSAIDsを中心に内服や難しければ坐薬を用いてコントロールします。
床ずれに関しては体位交換や環境整備、清潔管理を行います。呼吸困難は酸素療法の検討やポジショニングで緩和。排泄障害は内服コントロール、摘便、水分量の調整などを行います。
看護師としてのアセスメントを十分行い、痛みのコントロールをすることが大切です。
3-2 精神面のケアは家族や医療職者の連携で緩和
終末期の患者さんは、死に対する不安や絶望、環境の変化に伴うストレスなど、さまざまな精神的苦痛を感じています。
特に癌患者さんにおいては10~20%は強いうつ状態にあり「死にたい」と願ってしまうほど思い詰めてしまうこともあります。
これらのうつ状態やそれに伴う不眠に関しては、安定剤や抗うつ剤、睡眠剤の使用を検討します。また終末期には脳の機能が低下して頭が混乱するせん妄症状がおきることもあります。せん妄の症状としては、幻覚が見えたり、興奮状態になって大声を出したり、暴力などをふるったりすることがあります。
<対処法>
- ベッド周辺の安全管理をして転倒転落を防ぐ
- 鎮痛剤の投与
- 症状が強い場合は薬物療法の検討
どうしても薬物療法に頼ってしまうことが多いですが、一時的な症状のことも多いので、家族を含めた従事者の患者さんへの理解、そして早期の対応が最も重要になります。
3-3 社会的苦痛にはとにかく傾聴
終末期の患者さんは、自分の看病や介護などによって負担をかけたり、経済的に負担をかけたりすることに苦痛を感じていることが多いです。
また、今まで家族を経済的に支えるなど中心的な存在だった人が、逆に家族に支えられる身となることで、自分が役割を果たせなくなったと感じることもあります。
こうした社会的苦痛について、看護師が対処できることは多くありませんが、状況に応じて患者さんとご家族の橋渡しをしたり、患者さんの話に耳を傾けたりするなど、きちんとコミュニケーションをとることが大事になります。とにかくご本人含めた家族への話を傾聴して、その都度耳を傾けるようにしましょう。
4 終末期に自身の意思表示を書面で残しているのは僅か5%以下
終末期医療において重要なのは本人の意思確認です。
一方で、人生の最終段階における医療に関する意識調査結果(医療と介護の連携に関する意見交換(第1回)議事次第)では、70%以上の人が書面で意思表示をすべきと思っているのに、実際に行動できている方は5%満たない状況にあります。
国民が人生の最終段階における医療に関して考える機会を増やしたり、本人の意思を尊重した人生の最終段階における医療の提供体制の整備がなされてはきていますが、課題が多いのが現状です。看護師としてこの現状を理解して、話し合う場面を増やすことが大事なのがわかります。
5 緩和ケアでは病気の進行度や疾患には関係なく、苦痛を和らげることに重きを置いています
WHOでは
「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」
<日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳>
と定義しています。緩和ケアでは病気の進行度や疾患には関係なく、患者さんの苦痛を和らげることに重きを置いています。
日本ではがん治療の終末期のイメージが強いですが、最近ではがん以外の疾患や診断時の初期にも対応しているところが増えてきているのが現状です。「治療が望めない、余命の短い患者さん」へ身体的・精神的・社会的側面などから総合的にケアを行います。対象疾患はがん以外、ターミナル以外もあるということです。
終末期医療と混在しがちですが、緩和ケアにおいては、とにかく痛みの緩和を重点に置いていることになります。
6 まとめ
看護師にとって終末期医療はとても重要な分野のひとつになります。その上で終末期医療の定義はおおよそ3か月以内であること、生前の意思表明の有無の確認の重要性、看護師がすべきケアを知ることは非常に大切になります。病院看護でも在宅看護でも施設看護でも切り離せない分野ではあるので、ここで改めて知る機会になれば幸いです。
コメント