訪問看護とは?興味を持ったら最初に知っておくべき6つの基本を徹底解説!
利用者さんとじっくり向き合って看護がしたいと思う看護師にとって、今注目の職場の1つである訪問看護。しかし、全国に160万人いる看護師の中で訪問看護師は約6.5万人とまだまだ少ないのが現状です。また、一般の方には訪問看護という言葉自体まだまだ馴染みの薄いサービスです。
そこで今回は、訪問看護とは?という所からスタートし、訪問看護に興味を持っている看護師や利用者さんの方が気になるポイントを解説していきます。
筆者は訪問看護ステーションで役員として主に経営面に携わり、働き始めてもうすぐ3年になります。これまで100名近くの看護師とともに仕事をしてきました。近年は国が後押ししていることもあり注目度の高まりとともに若い看護師がどんどん訪問看護に転職しています。
今後の在宅医療ブームに乗り遅れないためにも、この記事からスタートしてみてください。
目次
1 訪問看護とは、どんな看護をするのか
まず結論として、訪問看護の医療処置は病院での医療処置と基本的には変わりません。主な違いは以下の通りです。
病院 vs 訪問看護 | 病院 | 訪問看護 |
看護の目的・考え方 | 治療(キュア) | 生活の質を高める(ケア) |
医療器具・設備 | 器具・設備が整っている | 自宅にあるものをなるべく使う |
患者さんと接する時間 | じっくり向き合う時間の確保が難しい | 週3回まで、週120分程度 |
病院との違いは、在宅には病院のように最先端の医療器具は無いので、高度な治療は出来ないというところです。また、病院は治療(キュア)を主な目的としているのに対し、訪問看護は生活の質を高めること(ケア)を主な目的としています。
訪問看護とは看護師などが居宅を訪問して、主治医の指示に基づき療養上の世話又は必要な診療の補助を行うことをいいます。
最期まで居宅で過ごせるように支援をするため、行う処置は幅広いことが特徴です。
全ての処置は医師の指示が記載された指示書に基づき行います。訪問看護ステーションは病院・診療所に併設の場合と訪問看護ステーション単独の場合があり、いずれの場合でも訪問看護サービスに違いはありません。訪問看護ステーションは地域で利用者さんを支える他の機関と連携を取りながら利用者さんを支えます。下記はその関係図を示したものです。
また、主な訪問看護の内容は以下になります。
・日常生活の支援
・心理的支援
・医療的ケア
・予防的看護
それぞれの詳細を以下で見ていきましょう。
1-1 バイタルチェックから始まる健康上のアセスメント
訪問時には、体温、呼吸、血圧等のバイタルチェック(※)から始まり、全身の健康状態や、病状や障がい、日常生活に影響を及ぼす要因のアセスメントを行います。
どのような看護実践をおこなえば居宅で安心して過ごせるかのアセスメント結果は地域で1人の利用者さんを支える他職種(医師、ケアマネージャー、家族等)に報告し、また、その後の看護計画を立てる際に使用していきます。
1-2 医師の指示に従って行う医療的ケア
訪問看護で看護師が重要視されるケアはやはり医療的ケアです。
訪問は訪問看護だけでなく訪問介護や訪問リハビリなど、さまざまな職種が連携して1人の利用者さんを支えます。しかしながら、医療的ケアを実施できるのは看護師のみだからです。
訪問看護における医療的ケアは医師の指示に基づいて行う医療行為です。例えば点滴注射、褥瘡・創傷処置等をおこなったり、留置カテーテルの管理、在宅酸素療法管理、吸引、人工呼吸器使用上の管理等の医療機器や器具使用者のケアを行ったりします。
疼痛、血糖コントロール、脱水等の症状マネジメントを行い医師等への情報提供や服薬管理も行います。
また、訪問看護ならではというのが24時間体制での急変、急性増悪等による緊急時対応です。初期対応は看護師が行う必要があります。
その他、主治医の指示による処置・検査等も実施でき例えば対象の調子が悪そうであれば医師の指示の下で採血をとるということもあります。
1-3 清潔ケア・排泄ケア等の日常生活の支援
病気や障がいを抱えながら在宅で生活を送るための日常生活で必要な処置を行います。清潔ケアは清拭や入浴介助等を行います。
また、排泄管理及びケアとして排泄が自己にて行えるように自立支援をしたりストーマ管理や適切なおむつの使用を促したりと排泄全般にかかわるケアを実施します。
また、療養環境の整備として適切な福祉用具の使用を促していきます。さらに、コミュニケーションの支援も重要です。ALSで自宅療養している利用者さんなどは話せない、意思疎通ができないという方もいらっしゃいますので、訪問した際に文字盤を使ったコミュニケーションを利用者さんととることで次に続く心理的支援にもなります。
1-4 家族を巻き込んだ心理的支援
心理的な支援として精神・心理状態を安定して居宅での療養が行えるように支援をします。
睡眠等日常生活リズムの調整やリラックスのためのケアを行います。また、本人の希望や思いを尊重した支援を中心に行っていき、家族ともコミュニケーションをとり、対象を取り巻く人のケアを実施します。
1-5 状態が悪化しないよう行う予防的看護
今の状態を維持するだけでなく悪化しないように予防をするのも訪問看護師の処置の1つです。例えば褥瘡や拘縮、肺炎、低栄養等の予防、健康維持・悪化防止の支援を行います。
2 訪問看護で多い疾患とは
訪問看護で多い疾患は、神経系の疾患、パーキンソン病、循環器系の疾患です。この割合については介護保険と医療保険のどの保険を利用しているかによっても疾患の割合は異なります。そこで、医療保険と介護保険に分けて見ていきましょう。
2-1 医療保険で最も多いのはパーキンソン等の神経系の疾患
医療保険を利用して訪問看護を利用されている方においては、パーキンソン等の神経系の疾患が最も多く、神経系の疾患、統合失調症、悪性新生物の3つで約6割を占めています。
※出展:厚生労働省 中医協 訪問看護について
2-2 介護保険で最も多いのは循環器系の疾患
介護保険を利用して訪問看護を利用されている方においては、脳血管疾患が最も多く、その他の循環器系の疾患と併せると介護保険全体の約50%となっています。(参照:厚生労働省 訪問看護ステーション利用者の状況)
3 訪問看護は疾患によって適用される保険が変わる
病院では医療保険が適用されますが訪問看護は医療保険が適用される場合と介護保険が適用される場合があります。訪問看護を受ける際に医療保険と介護保険のいずれを適用するかは複雑なため、わかりやすく図にまとめると以下のようになります。
この中で出てくる特定疾病とは、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因し要介護状態の原因である心身の障害を生じさせると認められる疾病のことを指し、全部で16個あります。(参照:厚生労働省 特定疾病の選定基準の考え方 )
これにあたる場合、通常介護保険を適用できない40歳~64歳の第2号被保険者も例外的に介護保険適用となります。
また、基準告示第2の1に規定する別表7に掲げる疾病は、全部で20個あります。(参照:訪問看護相談支援センターかごしま 介護保険と医療保険どちらをつかうの?)なお、基準告示第2の1はその他に特別管理加算対象の疾病についても掲げています。
これらにあたる場合、医療保険が介護保険よりも優先し、医療保険適用となります。
4 訪問看護の医療保険料金と介護保険料金
医療保険適用となった場合の基本的な料金と介護保険適用になった場合の料金について、基本的な料金構造を解説するとともに料金表を記載します。
なお、介護保険は地域によって8段階の料金設定となっており、1番高い『1級地』と1番低い『その他』で11.4%も料金に差が出ます(介護保険の料金表は1等級のものを記載します)。例を挙げると、東京23区は『1級地』で、沖縄の那覇市は『その他』の区分に該当します。
4-1 医療保険の料金表と計算方法
利用者さんが負担する料金は、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療保険等の加入保険の負担金割合(1〜3割)によって算定されます。何割負担かは利用者さんごとに医療証を必ず確認するようにしましょう。自己負担額の基本的な計算方法は以下になります。
なお、10 円未満は四捨五入します。 基本的な計算式に料金を当てはめてみます。
医療保険の料金は訪問の都度【基本療養費(週3日までは5,550円/回) + 管理療養費(月の初日に7,440円~、2回目以降3,000円)】がかかります。その他緊急時のオンコール対応等をお願いする場合、1回につき2,650円が発生します。
加算を除くと、月の初回の訪問は12,990円~、2回目の訪問以降は8,550円発生し、健康保険の負担割合に応じて、例えば3割負担の方は上記金額に3割を乗じた金額を自己負担します。
詳しい料金表は下図の通りです。
4-2 介護保険の料金表と計算方法
要介護度に応じて設定される月額利用限度額の範囲内で、任意に利用することができます。
利用者さんが負担する料金は、原則として介護保険負担割合証に記載されている負担割合に応じて1割~3割負担となります。但し、介護保険の給付の範囲を超えたサービス利用は全額負担となります。 自己負担額の基本的な計算方法は以下になります。
例えば、1級地で看護師による30分以上60分未満の訪問の場合、9,359円が発生し、介護保険証記載の自己負担割合を乗じた金額が自己負担の金額となります。詳しい料金表は下図の通りです。
なお、介護保険のその他の等級地の料金表やそれぞれのサービス内容の詳細については、こちらの記事をご覧ください。【訪問看護の料金について徹底解説】
5 訪問看護をスムーズに開始するために知っておくべき2つの相談先
訪問看護をスムーズに開始するためには適切な相談先へ相談することをおすすめします。相談先と訪問開始までの流れは以下の図をご参照ください。
相談先は適用される保険によって異なりますので、以下で説明していきます。
5-1 医療保険の場合の相談先
医療保険の場合は介護保険のプランを組んでくれるケアマネージャーがつきません。そのため、医療機関の主治医や病院でお世話になっている看護師にまずは相談してみると良いでしょう。その他を含む相談先を整理すると以下のように列挙できます。
・かかりつけの医師
・自宅近くの訪問看護ステーション
・病院の看護スタッフ
・病院、施設(医療相談室・地域連携室の相談員やソーシャルワーカー)
なお、上述の図ではかかりつけの医師、病院の看護スタッフ、病院・施設(医療相談室・地域連携室の相談員やソーシャルワーカー)を一括りに『医療機関』としています。
5-2 介護保険の場合の相談先
介護保険の場合は、担当となったケアマネジャー(介護支援専門員)にまずは相談すると良いでしょうか。ケアマネージャーは認定された介護度に応じたケアプランを作成する仕事をしており、そのケアプランの中に訪問看護サービスを入れることができます。その他を含む相談先を整理すると以下のように列挙できます。
・地域包括支援センター
なお、上述の図では地域包括支援センター及び市町村役場を一括りに『行政』としています。
6 利用者さんと訪問看護師の関わり方
6-1 週に3回、1.5時間~4.5時間の訪問サービス
病院では治療が終わって退院すると患者さんと看護師の関係性も終わりますが、訪問看護では、看護師と利用者さんが1対1で向き合います。そのため、看護師が利用者さんにとって一番身近な医療者となります。では、どれぐらいの時間利用者さんに寄り添うことができるのでしょうか。
1人の利用者さんを週に何回、何時間見ることができるかについても利用する保険によって異なります。介護保険を利用して訪問看護を受ける場合、基本的にケアマネージャーが作成するケアプランに則って訪問回数や訪問時間が決まります。1回の訪問時間は、20分、30分、60分、90分の4区分となり、ケアプランに沿った時間訪問します。週に何回訪問するかもケアプランによって異なります。
医療保険の場合基本的には、1回30~90分で週3回が利用の限度となっています。ですが、医療保険の場合には例外があります。
それは厚生労働大臣が定める疾病等※1、病状の悪化等により医師により特別訪問看護指示書の交付を受けた利用者※2及び特掲診療科の施設基準等別表第8に掲げる状態等にある者(特別管理加算の対象者)※3です。
これらに該当する方は医師の発行する特別指示書に基づき週4日以上かつ、1日に2~3回の難病等複数回訪問看護での利用ができます。以下がその図示になります。
出展:厚生労働省 訪問看護(参考資料)
なお、保険ではなく自費で利用する場合は、訪問看護の回数や時間の制限はなくなります。自費で訪問看護を利用されるという方の多くは、すべての訪問看護の利用回数あるいは利用時間を自費で賄っているというわけではなく、普段利用している訪問看護の回数では足りないなどの理由で追加分を自費で受けているという傾向にあります。
6-2 訪問看護利用中に困った時の連絡先
訪問看護は看護師が1人で訪問をするという性質上、困った時にすぐに周りにいる看護師に助けを求めることができません。
また、利用者さんは医療機器の整った病院ではなく、自宅で療養するため、困った時にすぐに周りにいる看護師に助けを求めることができません。そのため、それぞれの立場でて困った時には以下で説明する連絡先に助けを求めましょう。
6-2-1 利用者さんはまずは主治医か看護師さんに連絡
看護師がいないときに容態の急変等により自分ではどうしようもないと思った時は、主治医や訪問看護ステーションに連絡し、助けを求めましょう。この時、基本料金とは別料金になりますが、緊急訪問をあらかじめ依頼しておくと緊急連絡先を教えてもらえるので、そちらに連絡しましょう。
緊急連絡先は緊急をとっている訪問看護ステーションであれば、24時間365日対応してくれるはずです。
6-2-2 看護師も電話で主治医に連絡
訪問看護師は訪問先で通常1人でケアをするものの、その指示は主治医による指示書の内容に従います。そのため電話で指示内容を確認するとともに困りごとを相談します。
一見すると1人でケアしているように見えますが、病院で勤務している時と同様にチーム医療は不可欠です。そのため、1人で訪問して困った場合には医師に指示を仰ぐということも必要です。
病院のようにみんなが集まって定期的にカンファレンスをするステーションは少なく、なかなかチームの関係性が見えにくいところではありますが、常にチームでつながっているということを念頭において、関わると良いでしょう。
医師とのコミュニケーションをしっかりととることができれば1人でも安心してケアに携わることができます。
6-2-3 デバイスを使ったオンライン通信でサポート
近年訪問看護の現場で徐々に広がりを見せているのがiPadやスマートフォン等のデバイスを利用したオンライン通信でのサポートです。これは看護師が利用者さんのそばにいるということ前提でオンラインで医師が診療をして指示をするというものです。
診療だけでなく看護師が利用者さんの目の前で直接医師に質問や相談もできるので、困った時の解決に有効です。また、デバイスを利用して同じ訪問看護ステーションの上司に状況の相談、助けを得ることもできるため、1人での訪問も安心して行うことができるようになると考えられています。(参照:厚生労働省 D to P with N (患者が看護師等といる場合のオンライン診療))
7 まとめ
看護師にとって訪問看護の分野は病棟と異なることも多く未経験の方は戸惑うかもしれません。1人でケアに入る、他の職種となかなか顔を合わせる機会がないことも戸惑うかもしれません。しかしながら、訪問看護もチーム医療で、みんなで協力しあって働く仕事です。
利用者さんも医療機器の備わっていない自宅での療養生活に不安を感じる方は多いです。看護師としてこの記事をスタートに訪問看護について勉強を深め、『自宅に帰りたい』と考えている利用者さんを1人でも多く助けて欲しいと願っています。
チームで医療を展開するというのは病院も訪問看護も同じ。そう考えれば不安も軽減して働けるのではないでしょうか。これから高齢化社会に伴いますます重要視される訪問看護。是非検討してみてはいかがでしょうか。
訪問看護の仕事内容をより詳細に知りたい方向けに、記録書等のテンプレートとともに仕事内容や1日の流れを紹介した記事もありますので、ご覧ください。【実際働いた私が訪問看護の仕事内容を病院と比較しながら徹底解説!】
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