訪問看護の管理者は若くてもできる!仕事内容の解説と全ての困難事例を解決する方法
昨今、在宅医療が注目される中で、看護師にも人気が出始めている訪問看護。筆者は訪問看護ステーションで29歳の時に管理者に就任し、5年経験して現在に至ります。
訪問看護には興味があるけど、看護師としての経験がある程度ないと訪問看護師として働くのはハードルが高いと感じていませんか?まして、訪問看護の管理者になるなんて、ハードルが高すぎて尻込みをしてしまう人もいるでしょう。
でも、実は訪問看護の管理者は、若く訪問看護の経験が浅くてもできるんです。その理由は大きく以下の2つです。
今回は、訪問看護の管理者業務に焦点を当て、管理者が困ってしまう事例を紹介しながら、その困りごとの解決方法までを紹介していきます。この記事を読み終えた後に、訪問看護未経験でも管理者を目指したいと思ってもらえれば幸いです。
「訪問看護アクションプラン2025」によると、団塊の世代が後期高齢者となる2025年までに在宅医療にたずさわる看護師を今の3倍にあたる約15万人までに増やす必要があると言われています。(参照:公益社団法人日本看護協会 訪問看護アクションプラン2025)
しかしながら、訪問看護ステーションで従事する看護師は、2019年度では約6万人となり、訪問看護師の数が少ないと言わざるを得ません。(参照:日本看護協会 看護統計資料室)
2022年における訪問看護ステーション数は、14,304施設となっており、今後ますますの需要拡大のために、訪問看護ステーション数の増加も求められているといえます。(参照:全国訪問看護事業協会 令和4年度 訪問看護ステーション数 調査結果)
今後ますます求められる引く手あまたの訪問看護師になって欲しい、そして管理者を目指してほしい、そんな願いを込めて書きました。
目次
1 訪問看護の管理者の仕事内容
多くの訪問看護ステーションでは、管理者は管理者業務と実際の訪問看護業務を兼任しているところが多いです。以下に訪問看護の管理者の主な業務を挙げてみましょう。
★ 訪問看護エリアの市町村にある、保健・医療・福祉との連携(担当者会議・地域連絡会への参加)
★ 利用者さんからの苦情対応
★ 訪問看護計画書の管理
・訪問看護報告書や記録書Ⅱ等の書類・カルテの管理
・レセプト請求業務
・厚生労働大臣や知事の指導や助言の対応(行政対応)
・訪問看護師のスタッフや適切な勤務体制の確保
・訪問看護の質の評価や向上のための指導や調整
・職員の研修の実施や派遣
・不正な保険給付や療養費支給があった場合の市町村や全国健康保険協会などへの連絡と通知
・職場の衛生管理
・職員のシフト調整
必須の業務以外については、ステーションの規模や方針によってまちまちですが、ステーション規模、会社規模が大きくなればなるほど、管理者以外の担当者が担当するケースが増えていきます。
訪問看護の管理者に興味はあるが、訪問看護未経験という方は規模の大きなステーションで、かつ、新規ステーションを開設する意欲の高い会社へ転職すると良いでしょう。
なお、行政対応については、医療保険、介護保険で管轄が異なります。医療保険は厚生局が管轄し、介護保険は多くの場合、福祉保健局が管轄しています(政令指定都市など『市』が管轄していることがありますので、ステーション所在地に応じて調べておきましょう)。
厚生局は日本で全部で8つに別れていて、管理者として困りごとがあるとここに電話問い合わせをすることになるので、ステーション所在地に応じて調べておきましょう。(参照:厚生労働省 地方厚生(支)局)
介護保険については、各地の福祉保健局や市のホームページを調べると、各種届出申請書のフォームや記載例が網羅的に整理されていますので、そこをご覧になれば漏れなく行政対応を行うことができます。なお、東京都福祉保健局のページはコチラです。(参照:東京都福祉保健局 訪問看護・介護予防訪問看護(訪問看護ステーションのみ))
また、一例として、変更届のフォームの一部を下記に示します。下記の通り、「変更があった事項」がチェクリスト代わりにも使えますので、こちらを活用すれば誰でも安心して管理者業務を行うことができます。
※出典:東京都福祉保健局 訪問看護・介護予防訪問看護(訪問看護ステーションのみ)
これらの訪問看護管理者の仕事に加えて、訪問看護業務を行う場合もあり、想像以上にハードさを感じることもあるかもしれません。
2 助けとなるツールがたくさんあるので、管理者として困ったときでも大丈夫!
訪問看護管理者としての必須の仕事内容の数は少ないですが、本当に若く経験の浅い看護師でも管理者が務まるのかと不安にもなるでしょう。
訪問看護管理者の業務をサポートしてくれる行政機関や本やQ&Aツールがたくさんあるので大丈夫なんです。それらを駆使していけば、管理業務未経験で困ったことがあっても対応することが可能です。どんな困った場面が想定できるのか、事例を挙げてみてみましょう。
2-1 特別管理加算は緊急時対応の加算を取っていることが必須条件か?
管理者業務の中のレセプト請求業務に関連する特別管理加算についての悩みごと事例です。特別管理加算とは、医療的な管理が必要な利用者さんに対して、計画的に管理が行われている場合に、月の初回訪問時に算定することができる加算をいいます(1月に1回)。
特別管理加算は、介護保険と医療保険の両方にあり、同じ趣旨のものになります。
ある利用者さんについて、この特別管理加算を取れるかとれないか、以下の事例を検討してみてください。
この時、特別管理加算は算定してしまって良いのでしょうか?。
【管理者のお助けツール】
事例を見て回答がわからなかった看護師は管理者ができないかというと、そんなことはありません。世の中これを知らない管理者はたくさんいます。大事なことは、以下のツールを使えば上記のような困りごとは誰でも解決できることを知っておくことです。
①訪問看護財団へ問い合わせを行う
日本訪問看護財団では、訪問看護等在宅ケアを提供する場合に感じる様々な疑問・質問にお答えする相談窓口を設置しています。とても親切に質問を聞いてくれて回答・解説をしてくれます。
訪問看護財団問い合わせ先:03-5778-7008(毎週 月曜日・水曜日・金曜日の9:00~16:00まで(お昼休憩あり))(参照:日本訪問看護財団 相談・助言)
②医療保険は厚生局への問い合わせを行う
医療保険については、上述した厚生局の参照ページからステーション所在地を管轄する厚生局へ問い合わせを行うと、担当者が回答・解説をしてくれます。例えば、インターネットで【厚生局 訪問看護】と検索するだけで、直ぐに問い合わせ先を探すことができます。
③介護保険は福祉保健局へ問い合わせを行う
介護保険についても、ステーション所在地を管轄する福祉保健局へ問い合わせを行うと、担当者が回答・解説をしてくれます。例えば、インターネットで【東京 福祉保健局 介護担当】や【東京 福祉保健局 指導課】と検索するだけで、直ぐに問い合わせ先を探すことができます。
④書籍に答えがある
介護報酬の解釈という書籍があることをご存知でしょうか。業界では青本、赤本、緑本などと略称で呼ばれることもあります。
上記事例でいうと、緑本の介護報酬の解釈 QA・法令編に、以下の記載があります。
Q16 特別管理加算②緊急時訪問看護加算との関係
Q:特別管理加算を算定するためには、緊急時訪問看護加算を算定することが要件であるか。
A:特別管理加算の算定について、緊急時訪問看護加算は要件ではないが、特別管理加算の対象者又はその家族等から電話等により看護に関する意見を求められた場合に常時対応できる体制その他必要な体制を整備していることが望ましい
介護保険は必須ではないという回答が載っているのです。こちらの書籍はAmazon等でも買えます。
その他、一般社団法人全国訪問看護事業協会が出版している、訪問看護実務相談Q&Aという書籍があります。
上記事例でいうと、医療保険の特別管理加算について以下の記載があります。
Q6-98 24時間対応体制等をとっていない場合の特別管理加算の算定
Q:特別管理加算は、24時間対応体制加算を取っていないと算定できませんか。届出をしていれば算定できますか。
A:特別管理加算は、24時間対応体制加算を届出ていることが算定要件です
医療保険では必須であるという回答が載っているのです。こちらの書籍はAmazon等でも買えます。参考としてリンクを貼っておきます。(参照:訪問看護実務相談Q&A)
このように、たくさんの問い合わせ先があり、いずれも回答・解説をしてくれるので、知らないことがあっても安心して管理者業務を行うことができます。
2-2 女性限定等の限定訪問が限界に来た場合に何を頼りにすればよいか?
利用者の困難事例は色々なパターンがあります。管理者はその対応に苦慮することもありますが、お助けツールを駆使することで経験の浅い看護師でも管理者として十分活躍可能です。女性限定訪問の事例を見ていきましょう。
【管理者のお助けツール】
当社でも現在は性別での訪問可否は緊急訪問の観点からも無くすように努力をしておりますが、状態変化や困難事例で他社と協力というものは少なくありません。そういう時の備えとして、どのように他者とのパイプを普段から作っていくかがポイントになります(地域によって違いはあります)。
①訪問看護連絡会への参加
多くの市区町村で行われている、訪問看護ステーション管理者が集まる会議に参加します。地域差はありますが、8割以上のステーションが参加しており、相談先探しにはもってこいです。
特別管理加算の事例にあった法令でわからないこと、参考書を読んでもわからないフレキシブルな事例にも他ステーションの管理者に聞くと教えてもらえます。同じ看護師という立場で悩むことは似ているので、最初は聞きにくいかもしれませんが、積極的に聞くことで逆に相談がくることもありますので、地域に根付くステーションを目指すためにも必要なツールになります。
②介護事業所協議会への参加
訪問看護だけの集まりがない地区もあります。その際は地域で開催される事業所の連絡会に参加するようにしましょう。地域のコネクションを作ることで相談先ができます。
情報を多く持っている事業所が必ずありますし、特におすすめは会長や副会長などの役職者と顔見知りになることが大事です。そこから協力してくれるステーションが見つけることができます。
当社でも参加していた協議会で、その協議会の会長から紹介頂いたステーションと今でも困りごとを相談しあう交流が続いています。
③福祉保健局の介護保険課への相談
地域の情報は介護保険課が一番持っています。ご利用者様のクレームや問い合わせ先の部署でもあります。ご利用者様の困ったことはこちらで解決することが多いので、自社のステーションで解決が困難な場合は、自身で悩むだけではなく相談するようにしましょう。
困ったときにお願いよりも、事前に相談先があるとスムーズにいくことも多いので、是非早めに挨拶や定期的な顔合わせを行いましょう。
このように、訪問看護の経験が浅い看護師が管理者となり、問題が生じたとしても、相談・支援をしてくれる行政機関や市町村、看護協会、本やQ&Aサイトなど多くのツールを使うことで、対処することができます。
3 管理者の1日の仕事内容
最後に、訪問看護管理者の標準的な1日の仕事内容を紹介します。
訪問看護ステーションの規模や管理者業務の内容によって、仕事の内容も変わってきます。しかし、訪問看護管理者には、訪問看護ステーションの運営がスムーズにいくようにスタッフの教育や配置、他医療機関や行政機関との連絡・調整、苦情や困難事例の対応、新規利用者との契約、レセプト請求などが主に役割として求められているといえるでしょう。
4 まとめ
訪問看護の管理者業務は、病院勤務の看護師や訪問看護師と比べて、確かに求められる役割は多岐に渡ります。しかし、困難事例にあたっても今回紹介したお助けツールを駆使すれば若く経験の浅い看護師でも十分管理者業務をこなすことができます。
今後ますます訪問看護が求められる時代となり、訪問看護の需要は確実に高まります。そのような時代の流れの中で、たとえ訪問看護の経験が浅くても訪問看護の管理者として従事することは、社会的にみても非常に貢献度の高いことといえるでしょう。
訪問看護の管理者になったとしても、すべての業務や責任を一人で担うわけではありません。共に働く訪問看護師や行政機関・医療機関、地域の同業者などに積極的に相談をし、支援を受けながら、たとえ訪問看護経験浅い看護師であっても管理者業務をこなすことができます。
訪問看護ステーションへの転職を考えている方は是非管理者へのキャリアパスまで考えて見てはいかがでしょうか。
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