看護師がリハビリに関与する範囲と臨床に活かすための3つのアプローチ
「リハビリって、リハビリ専門職の仕事ですよね?」そう思っている看護師は多いのではないでしょうか?
一般的に、リハビリテーション医療は多くの専門職によるチーム医療であり、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などリハビリ専門職者(以下、リハビリ専門職者)、医師や看護師などの医療スタッフが一つのチームとなって行う必要があると言われています。
筆者は、急性期病院、回復期リハビリテーション病院、訪問リハビリと臨床経験のある理学療法士ですが、そのような経験からも、リハビリ専門職だけでなく、看護師にも積極的にリハビリに参加すべきだと考えています。
本稿では、リハビリに対して看護師の方に知っておいてもらいたい基礎知識や、実際に看護師がリハビリに参加した方が良い理由を説明していきます。
目次
1 看護師がリハビリに対して知っておくべき5つのこと
「リハビリってリハビリ室でやるものでしょう」そう思っている看護師は多いのではないでしょうか?関わることが多いものの、実際にリハビリに対して正しく認識されている看護師は少ないはずです。
まず、リハビリとはどういうものなのか、看護師がリハビリを行っても良いのか、またどういった職場で関わる機会があるのか等を説明していきます。
1-1 リハビリ室での運動がリハビリの全てではない
リハビリと言えば、装具をつけての歩行練習や器具を使って筋力練習、ベッドでストレッチ等を行う姿を想像される方が多いのではないでしょうか?しかし、それがリハビリの全てではありません。リハビリとは、患者さんの機能回復訓練のみを指すものではなく、元の地域社会において自立した生活を送れるようにすることを指します。つまり、病棟生活場面の一つ一つも行い方によってはリハビリになります。まずは、”リハビリ=リハビリ室での運動”という固定観念を捨てましょう。
1-2 看護師がリハビリの仕事をすることは法的に問題ない
リハビリ専門職は業務独占資格ではないため、看護師がリハビリ専門職の仕事をすることは法的に問題がありません。業務独占資格とは、資格を持っている人だけが、独占的にその仕事を行うことを指し、医師、看護師、診療放射線技師等が該当します。リハビリの実施は法的には問題ありませんが、看護師に限らず、医師の指示の基で行うことが原則になります。
1-3 看護師が関わることが多いのは廃用症候群に対してのリハビリ
看護師が関わることが多いのが廃用症候群に対してのリハビリです。廃用症候群とは、心身の不使用・不活発によって機能低下を起こした病態のことを指します。簡単に言うと、体を動かさないと、どんどん体力が落ちて寝たきりになってしまいますよ、と言うことです。廃用症候群は特に高齢者が問題となりますので、必然的に対象者が多いことがわかります。
1-4 看護師がリハビリに参加すべき職場は高齢の患者さんが多い職場
看護師がリハビリに参加すべき職場とは、廃用症候群のリスクのある高齢の患者さんが多い職場になります。リハビリが目的の回復期病棟はもちろんとして、急性期病院の中でも虚弱高齢者の入院が多い病棟勤務の方などが挙げられます。また、訪問看護などの分野でもリハビリを看護師がすることが求められることはあります。高齢の患者さんが多くても、オペ室や外来などはその必要性がありません。
・廃用症候群のリスクのある高齢の患者さんが多い職場はリハビリに関与することは多い
・高齢者が多くてもオペ室や外来などはリハビリに関与する必要性はない
1-5 一般的に看護師はどこまでリハビリに関与するのか
1-4で紹介した職場であるケースは、基本的に看護師がリハビリに関わった方が良いと考えますが、一般的にどこまで関与するのかは、各病院の事情はまちまちです。
例えば、リハビリ専門職の配置が多い病院では、看護師のリハビリに対しての時間は少なくなると考えられますし、逆に配置が少ない病院では、看護師の関与すべき部分は大きくなります。これは、経験則になりますが、病棟であれば看護師長の考え方により、積極的に関与するのが普通と考える病棟もあれば、全くそうではない病棟もあります。このように同じような対象者層であっても病院や病棟により、関与の大小は異なります。というのも、看護師の仕事としてリハビリへの参加は絶対ではないからです。
関与の大きさは大小あるかとは思いますが、以降で紹介するようなリハビリ的な考えを持って取り組むことは患者さんのためになるのでお勧めします。
2 日常生活での関わりが多い看護師こそリハビリに参加すべき!!
リハビリ専門職よりも日常生活での関わりが多い看護師こそリハビリに参加するべきです。看護師は患者さんの日頃の様子を多く見ています。これは、リハビリ専門職がリハビリ場面でみている様子と異なります。
病院で働いている看護師であれば、リハビリ専門職から、「日頃の様子どうですかね?」と聞かれることはあるかと思います。これは、リハビリ専門職が、実際の練習場面と違うということ、また、日頃の状況変化を大事にしているためです。
日頃の状況をよく知っている看護師がリハビリの視点を持って接すると当然、患者さんの改善にも繋がります。
3 看護師が行うリハビリ業務って具体的に何をすれば良い?
看護師が関わることが多いのが廃用症候群に対してのリハビリです。図1は、リハビリ専門職が時間経過とともにどういったことを考えてリハビリを行っているかを示したものです。
この図から分かるように、一般的には急性期病院であれば、心身機能へのアプローチに重きが置かれ、訪問看護などの生活期では時間経過とともに活動や参加といったアプローチに重きが置かれます。看護師が行うリハビリについても、基本的にこの3つのアプローチを意識して行うのが良いでしょう。
以下に、看護師が行うリハビリ業務として、この3つのアプローチ例を示します。
図1 参考:国際機能分類を基に厚生労働省老健局老人保健課が作成した資料改変
3-1 離床と動作練習 – 心身機能のアプローチ –
急性期・回復期である場合は、心身機能のアプローチがメインになります。心身機能へのアプローチとはいわゆる機能回復の練習になります。ここでは、看護師が行う機能回復練習として、離床と動作練習を示します。
3-1-1 1日寝たきりで筋力は約1~3%低下!! とにかく離床が大原則
まずは離床を実施することが大原則になります。1日、安静臥床のままでは、約1〜3%/日、10〜15%/週の割合で筋力低下が起こると言われています。誰でも、熱で1日寝たきりだった翌日の仕事でいつも以上に疲れを感じることはあるでしょう。高齢者の場合は、元々の体力が低いため、1週間も寝たままになってしまうと、立てなくなる、歩けなくなるなどはよくある話です。急性期病院であれば、病状が安定しないことで離床ができない場合もありますので、医師指示の確認は必須になります。逆に、制限するものがないのであれば、積極的に車椅子に乗ってもらうなど、ベッドから患者さんを離していくことが大事です。
3-1-2 基本的には動作練習で力をつける!
看護師が行う機能練習の場合は、基本的には動作練習主体で行うのが良いと筆者は考えます。基本動作は、例えば、寝返り、起き上がり、座位、立ち上がり、歩行練習等、介助でできることを負荷の上限として、練習をするのがシンプルですし、後のADLの改善に直接的に繋がってきます。
3-2 “できるADL”を増やし、”しているADL”に変える - 活動へのアプローチ –
“できるADL”を増やし、最終的に“しているADL”に変えるという視点が重要です。“できるADL”とは練習場面ではできることで、“しているADL”とは日常的にしていること、つまり本番を指します。
“しているADL”が増えることで日常的な活動量は大きく変わり、機能練習も必要なくなってきます。“できるADL”の増やし方、そして”しているADL”へ変化させるポイントを示します。
3-2-1 介助量を少しずつ減らしていこう!
着替えや排泄、移乗、整容などといった身の回りの動作のすべてを介助でやるのではなく、安全にできる範囲で、自分でできることは自力でするように促しましょう。口頭で「自分でできることはやりましょう」と言うだけではなく、同じ介助をするでも、少しずつ減らしていくことがポイントになります。
例 トイレ排泄動作時、少し立っているバランスがよくなってきた!
→ ズボン上げ下げの動作を少しずつやってもらう。
3-2-2 心穏やかに待てる気持ちが大事
患者さん自身で行うと時間がかかってしまうので、看護側でやってしまうことありませんか?
例えば、食事動作やトイレ排泄、着替えなどを患者さん自身が行うとどうしても時間がかかってしまうことがあります。「他の看護業務で時間が限られるんだから、そんなの待ってられないよ!!」と、忙しい時はそんな気持ちにもなります。あくまでも、時間との相談にはなりますが、リハビリの観点では自発性を促す意味でも、可能であればご本人が行うことを待ってあげてください。
介助側が急かせかした気持ちでいると、患者さんに伝わり、患者さん自身の焦りに繋がります。患者さんのためであると思い、心穏やかに辛抱強く待てる心を持つことが大事になります。
3-2-3 能力に合わせてできる環境を作ってあげよう
身体機能が低い虚弱高齢者の場合、ちょっとした環境の違いでできること、できないことは大きく変わります。「環境ってことは、手すりとか福祉用具とか入れればいいんだね!」と、まず最初に思いつくと思います。ですが、福祉用具を導入するだけでなく、例えばベッドの高さを上げるや、物の配置を変えること、履き物を変えてあげるなど、すぐにできることでも、患者さんのADLに影響していきます。
例① ベッドから立ち上がりにくい → マットレスを固くする / ベッド高を上げる / L字柵の導入
例② 歩行が不安定で歩けない → 歩行器や杖の使用 / 手すりの設定 / 動線を狭くし伝い歩きしやすくする
自分でできるという達成感は更なる意欲の向上を生み、次のステップアップにも繋がります。
常に、どういう形なら起きあがりができるか、自力で立つことができそうかなどを考えながら、関わる視点が大事になります。
3-2-4 本人を前向きな気持ちする
「なんでこの患者はできるのにやろうとしないんだろう。。」看護師として、そういった場面が過去にありませんか?
“できるADL”が増えてきて、行いやすい環境も整えてきたのに、なかなか“しているADL”にならない、そういったケースは実際少なくありません。患者さんの多くは、過去の失敗や身体的な衰えによって客観的にできそうなことでも、自信がなくて初めの一歩が踏み出せないことや、逆に依存傾向が強くてやろうとしないことは多々あります。
こういった心理的問題が“できるADL”を“しているADL”にしていく上で、障壁になっていないか確認してみましょう。声かけを頻繁にしたり、話を聞いてあげたりなど、自立に向けて前向きな気持ちにさせる支援が必要です。
3-3 人それぞれの社会参加の形を見つけよう – 参加へのアプローチ –
病院勤めの方は中々関わる場面は少ないですが、訪問看護など生活期で仕事をされている方は、この視点が大事になります。「社会参加?これってリハビリ?」は、看護師の多くの方がこんな疑問を持たれるかもしれません。しかし、筆者は最終目標として、この”社会参加”が最も重要になってくると経験的にも感じています。社会の中での役割を感じること、それは患者さんの生きる意欲に関係しているからです。下記で説明していきます。
3-3-1 身体機能は人それぞれ、社会参加の形も人それぞれ
「社会参加って、地域のボランティアに参加するとか、働くとかかなぁ。。」そのようなことをイメージされる方が多いのではないでしょうか?デイサービスに参加して人と交流することや、家族と車椅子で墓参りにいくこと、家庭内でできる家事を行うこと、その人それぞれのできる社会参加の形は様々です。まずは、固定観念を捨てて、その人なりの社会参加の形を考えるようにしましょう。
3-3-2 患者さんのやる気スイッチを見つけよう !
今までの職歴だったり、趣味であったり、家族のこと、エピソードなどなど。。そこに、本人が大事にしていることや、行動に対する動機を見出すことができ、社会参加へ促すヒントがあるはずです。患者さんとコミュニケーションをよくとり、患者さんのことを理解するようにしましょう。
3-3-3 選択肢を増やせるように情報提供をしよう
患者さんのやる気スイッチがわかれば、それにあった情報提供をしていきましょう。歌を歌うのが好きであれば、地域でやっているコーラスグループの紹介など、地域資源をみつけて教えてあげることは大事です。また、社会参加するための情報提供としては、手段の情報提供も重要です。自力で外出ができないがスーパーで買い物がしたいという方に対しては、ヘルパーの外出支援を提案するなどが挙げられます。
3-3-4 “一緒に”参加する気持ちも大事
患者さんの中には、中々一歩踏み出せないことはよくあります。そんな時は、「やりましょう」、ではなく、「”一緒に”やりましょう」と声をかけましょう。仕事の中では現実的には難しい場面もありますが、そういった声かけや行動が、患者さんの気持ちを一歩押すきっかけになったりします。そして、一歩踏み出して、やれることがわかると自らやり始めるケースは多いです。
4 個別具体的な内容は専門職に確認が必要
個別具体的なリハビリ内容については、専門職に確認をお勧めします。ここまで、看護師が行えるリハビリ業務を紹介してきましたが、これらは、あくまでも廃用症候群に対するリハビリの基本的な考え方です。患者さんの疾患や経過は様々であり、実際は患者さんに対して個別プログラムを作成して実施する必要があります。疾患別リハビリ(脳血管や呼吸器疾患等)については、各分野での専門的な知識が必要になってくるため、リハビリ専門職に相談、もしくは実際に介入頂くことをお勧めします。
5 まとめ
リハビリ室での運動がリハビリの全てではありません。日常生活を知っている看護師がリハビリに参加していくことは、患者さんの改善に繋がります。看護師が行うリハビリとしては、離床から始まり、日常のケアの中で少しでもリハビリを実践することができます。脳血管障害など疾患別リハビリの必要性がある方などは、リハビリ専門職と相談・協力しながら行うことをお勧めします。
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