看護師の離職率は約11%!データからみる看護師の離職率を徹底分析
「また、今年も辞めていく。。」
看護師の人手不足はどの病院でも課題の一つ。
離職率が高い職場だと、在職者の負担も上がり、働く意欲もガタ落ち。。
もちろん離職率が高いからといって、その病院が必ずしも悪いとは限りません。
ただ、安定して働くためには離職率が高い職場だと、毎年大変な思いをすることは間違いないでしょう。
勤め始めてから「こんなはずじゃなかった……!」と後悔しないようにも、看護師の離職率やどういった病院が離職率が高いのか等は知っておいて損はないはず。
本稿では、看護師の離職率って本当に高いの?どれ位?病院規模などでの違いは?等の疑問に答えていきたいと思います。
目次
1 他業種との比較から見る看護師の離職率
2018年度の正規看護職員の離職率は10.7% と報告されています。(参照:日本看護協会)
つまり、10人の職場であれば、毎年1人は退職するという計算になります。
「看護師の離職率って高い?普通?」人によっては、そんな疑問湧いてくるかと思います。
この章では、他業種との比較から看護師の離職率をみていきます。
1-1 他業種と比較して看護師の離職率は決して高くない!!
看護師の離職率は一般労働者と比較して決して高いとは言えません。
図1は、2012~2018年の正規雇用看護職員・新卒看護師・一般労働者・大学新卒採用の各離職率を示しています。正規雇用看護職員の離職率は10~11%ですが、一般労働者の離職率は11~12%と看護師より若干高いことがみて取れることより世間一般の平均と大差ないことがわかります。
今度は、新卒看護師の1年目離職率をみてみましょう。
新卒看護師1年目の離職率は7.5~8%に対して、大卒採用1年目の離職率は11~13%と新卒看護師と比較して高いことがみてとれます。他業種の新卒の離職の方が問題が大きいと言えます。
新卒看護師は、一定期間勤務すると返還が免除される奨学金を利用する人が多いことが影響しています。
<各離職率の平均>
- 正規雇用看護師職員:10~11%
- 新卒看護師:7.5~8%
- 一般労働者:11~12%
- 大学新卒採用:11~13%
厚生労働省は「ある時点で在職していた人数」と「その後の1年間で退職した人数」の割合で離職率を出しているのに対し、日本看護協会は「当該年度の総退職者数/当該年度の平均職員数×100」という総退職者数が平均職員数に占める割合で離職率を出しています。
離職率の計算方法に違いはありますが、一般平均と比較して看護師の離職率はそんなに高くないことがわかります。
参考:厚生労働省
参考:日本看護協会
1-2 業種別でみても数字上は看護師の離職率は高いとはいえない
業種別で見ると、看護師の離職率10%というのは高いとは言えません。
図2は2018年の産業別の離職率を表しています。
宿泊業、飲食サービス業がトップの26.9%、生活関連サービス業、娯楽が23.9%と高い離職率となっています。
<業種別|離職率トップ5>
- 宿泊業,飲食サービス業:26.9%
- 生活関連サービス,娯楽業:23.9%
- サービス業(他に分類されないもの):19.9%
- 教育,学習支援業:16.6%
- 医療,福祉:13.7%
看護師は医療、福祉に含まれており、5番目の位置にいます。こちらは、介護分野も含まれることは注意が必要です。
こちらのデータは、パートタイムも含むデータにはなりますので、業態毎の雇用形態による特徴も加味されるとは思いますが、それを鑑みても看護師の離職率が他の業種と比較してすごい高いとはいえないというのが事実のようです。
2 設置主体別の看護師の離職率
看護師の職場は様々。病院毎での離職率って違うの??
そんな疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
図3は2018年度の設定主体別の新卒採用・正規雇用看護師の離職率を表しています。
正規雇用看護師については、その他公的医療機関、医療法人、個人が、新卒看護師については、済生会やその他の法人、社会福祉法人などが高い傾向にあるように見えます。
その他公的医療機関については、実は回答病院数が3つしかなかったためあまり全体を表しているとは言い難いのは注意が必要です。
2018年度のデータだけで、この病院が離職率が高い! と、判断は難しいのでは。。
下記で、過去の情報も含めて確認していきたいと思います!
2-1 看護師の離職率は個人病院が高く、公立病院等は低い
看護師の離職率は、個人病院が例年高い傾向にあり、公立病院等は低い傾向と言えます。
図4は、2012~2018年度の設置主体別の正規雇用看護師の離職率を表しています。
こちらを見ると個人病院での離職率は13%~17%と例年高いことが伺えます。公立、厚生連、日本赤十字社などは例年10%を切る離職率となっており、他と比較しても低い傾向にあるようです。
<個人病院と公立病院等の離職率の比較>
- 個人病院の離職率:13~17%
- 公立、厚生連、日本赤十字社などの離職率:~10%
公立病院で働く看護師の待遇は、公務員もしくはそれに準ずるものです。手厚い福利厚生があることで、その職場で長く働くメリットがあることが離職率が他と比較して低い要因ではないでしょうか。
逆に個人病院は規模の問題もあり、教育体制や福利厚生などの違いが影響しているのではないのでしょうか。
2-2 新卒看護師の離職率も個人病院が高い傾向
新卒看護師の場合も、個人病院での離職率が高いです。
図5は、2012~2018年度の設置主体別の新卒採用者離職率を表しています。
こちらを見ると個人病院での離職率が2018年度は5%と低かったものの、その他の年は10%以上と他設定主体と比較しても明らかに高い結果となっています。
逆に国立、日本赤十字社などは、例年離職率が低いことが伺えます。年度毎にばらつきがみられるのは、新卒看護師という母数にばらつきがあるものと考えられます。個人病院が高いのは、2-1で示したように、やはり新卒看護師に対しての教育体制なども影響しているのはないでしょうか。
3 病床数別の看護師の離職率
病院の規模の大きさを見る一つの指標に病床数があります。
病床数別での看護師の離職率も気になるところではないでしょうか。
図6は2018年度の新卒採用、正規雇用看護師それぞれの離職率を病床数での違いを表しています。
こちらを見ると、正規雇用看護師の離職率と比較して新卒採用の離職率が、病床数が多いほど離職率が低い傾向にあります。
下記で過去の情報からも検証していきましょう!!
3-1 看護師の離職率は病床数が多くなると若干低くなる傾向
正規雇用看護師の離職率は、病床数が多くなるにつれて、若干離職率が低くなる傾向がみられます。
図7は、2012~2018年度の病床数別の正規雇用看護師の離職率を表していますが、年度による変動はほとんどないことがみて取れます。最も高いのが99床以下で12~13%となっていますが、そこから病床数が多くなるにつれて10%前後まで離職率が下がる傾向がみて取れます。病床数の違いから見ると、看護師の離職率は2~3%程度の差はみられるという結果となっています。
3-2 新卒看護師の離職率は病院の病床数が多いほど顕著に低い
新卒看護師の離職率は病院の病床数が多いほど顕著に離職率が低くなります。
図8は、2012~2018年度の病床数別の新卒採用者離職率を表しています。
2018年度に限らずに、過去の情報からも病床数が多いほど離職率が顕著に低い傾向は変わらないようです。
99床以下の病院が特に離職率が高く、2014年度は約15%となっています。
100~199床、200~299床と離職率が下がり、300床以上では、7%前後とあまり変わらないようです。
病床数が多い病院はスタッフも多く、教育体制を力を入れている場合が多くあります。
やはり、新卒の看護師にとっては、教育体制は大事な要素だと思います。
また、1-1でも紹介しましたが、新卒看護師の多くは奨学金返済の問題を抱えています。
病院が経営している専門学校の卒業生は、そのまま母体の病院で数年働くことによって奨学金返済義務がなくなるなどといった制度を利用するケースも多々あり、規模の大きい病院では特にその傾向があるのではないでしょうか。
4 都道府県別の看護師の離職率
2018年度の都道府県別の離職率の結果は
正規雇用看護師の離職率1位:東京都(14.5%)
新卒看護師の離職率1位:愛媛県(12.2%)
となっております。
こちらは、単年の結果ですので、過去の傾向も踏まえてみないと、一概にこの都道府県の離職率が高いとはいえないのではないでしょうか。
ここでは、2012~2018年度の各都道府県別の離職率を平均したものから傾向をみてみたいと思います。
4-1 看護師の離職率は東京都や神奈川、大阪などの都市部で高い傾向
東京都や神奈川県、大阪府などの都市部で看護師の離職率が高い傾向にあります。
図9は2012~2018年度の各都道府県別の看護師の離職率を平均したものです。
東京都の14.3%は、看護師全体の離職率が約10%というのと比較すると約1.4倍も高い結果となっています。
逆に最も離職率が低いのは秋田県の6.6%。
図9からも、全体的に地方の方が離職率が低い傾向がみて取れます。
こちらのデータですが、標準偏差が大凡1%以内であったため、この平均値の1~2%程度、年によってズレがあると考えて頂いて良いかと思いますが、はっきりと傾向がみてとれました。
都市部は病院の数も地方と比較して多くあり、転職先が色々あることも離職率が高い要因の一つではないでしょうか。
4-2 新卒看護師の離職率も概ね都市部で高い傾向
新卒看護師の離職率も概ね都市部の方が地方と比較して高い傾向にあります。
図10は2012~2018年度の各都道府県別の新卒看護師の離職率を平均したものですが、愛媛や栃木など一部地方で高い傾向にあるものの、大阪府や東京都など都市部で高い傾向がみてとれます。
こちらのデータ、都道府県によっては年度毎で離職率に3%程度のばらつきがみられたため、解釈に注意が必要ですが、概ね都市部の方が離職率が高い傾向にあるといっても良いのではないでしょうか。
5 看護師の退職理由から見る離職率が低い病院の特徴
1~4章では、様々な切り口から看護師の離職率についてまとめてみた結果、
離職率が低いのは、
- 病床数の大きい病院
- 公立病院
- 地方の病院
という結論になりました。
では、どうしてこのような傾向になるのでしょうか。
それを考察するには、やはり看護師の退職理由と照らし合わせて考える必要があります。
図11は厚生労働省の「看護職員就業状況等実態調査 」(主な理由3つまで回答可能)での看護師の退職理由になります。
下記では、こちらの結果を踏まえて、離職率が低い病院の特徴を示していきます。
5-1 病床数の大きい病院はワークライフバランスの改善に取り組みやすい
病床数の大きい病院の方がワークライフバランスを整えられる傾向にあることが離職率が低い要因と言えます。
退職理由の1番に「出産・育児のため」、5番に「超過勤務が多いため」、7番に「休暇が取れない・とりづらい」、8番に「夜勤の負担が大きいため」が挙がっており、”働きやすさ”、ワークライフバランスというのが一つ大きなポイントとなっています。
看護職員は女性が多いため、結婚・出産・育児は仕事を続けるうえで大きなハードルとなっているのが現状です。
時短勤務や夜勤がなくても働ける、子育て支援が充実しているなど、それぞれの事情に合わせたそれぞれの働き方を支援できるためには、看護人員が多い病院でないとなかなか難しいのが現実です。
病床数の大きい病院は、病院内や法人内での異動などで、転職をしなくても良いケースも多いと思われます。
5-2 公立病院は手厚い福利厚生により安定して働ける
公立病院は手厚い福利厚生により、他の設置主体病院より、福利厚生の充実により安定して働けることが離職率が低い要因になっています。
公立病院で働く看護師の待遇は、公務員もしくはそれに準ずるものです。こちらは国立病院にも当てはまります。いわゆる公務員看護師と言われます。公務員に近い待遇のため、労働者の権利やワークライフバランスについてしっかりと対策が打たれており、働きやすい環境が用意され、諸手当も正当に支払われます。
例えば、看護師の労働時間の目安が決められており、それをオーバーしている状態が続いた場合、看護師長などの現場責任者が処罰されます。そのため、基本的に基準とされる勤務時間で仕事を終えることができます。
5-1でお伝えしたように、ワークライフバランスについての充実から離職率が低い傾向にあると言えます。
5-3 都市部と地方の病院の比較
地方の病院の方が離職率が低い結果となりましたが、その要因に都市部と比較して
・転職先が少ないこと
・地方の方が通勤しやすいこと
などが挙げられます。それぞれ解説していきます。
5-3-1 地方の方が転職の選択肢が少ない
地方の方が転職先が少ないため選択肢自体が少ないことが離職率が低い要因と考えれられます。
退職理由の3番目に「他施設への興味」があります。
“隣の芝生は青く見える”という諺があるように、他の病院の待遇や話を聞いて、誰しも羨ましがることはあるのではないでしょうか。
都市部では求人の広告も多数あり、それらを見ていると自分の勤めている病院よりも、「休みも多くて、給料がいい」、「すごく人間関係が良さそう!」、「私のやりたい分野がある!!」など、そんな気持ちから離職してしまうのではないかと思われます。
地方の方が、都市部と比較して選択肢は限られるため、そういった気持ち自体になる機会が少ないことが考えられます。
5-3-2 地方の方が通勤がしやすい
地方の方が通勤しやすいことが離職率が低い要因の一つと考えれます。
退職理由の6番目に、「通勤が困難なため」があります。
東京などの都市部の場合は、病院併設の寮でなければ、電車やバスでの通勤が多くなります。ただでさえ、病院勤務でヘトヘトなのに、満員電車に長い時間かけての通勤は体に堪えます。
仮に車通勤だったとしても、渋滞などで通勤時間はどうしても掛かってしまうでしょう。
地方の方が車通勤しやすいことや、渋滞も少ないことは言えますので、全般的に通勤がしやすいと思われます。
6 離職率データは参考までにした方が良い
転職を考える上では、離職率データは参考までにした方が良いと言えます。
ここまで、看護師の離職率について看護師の退職理由も含めて考察してきましたが、離職率データはあくまでも全体平均と傾向を示しており、個々の病院の話ではないためです。
つまり、離職率の低い傾向のある、病床数の大きい病院・公立病院・地方の病院であったとしても離職率が必ずしも低いとは限らないということです。逆に、2章では個人病院は離職率が高い傾向とお伝えしましたが、中には非常に働きやくて離職率が低い個人病院もあるはずです。
また、退職理由の4番目に、「人間関係がよくないから」があります。こちらについては、やはり実際に見学にいって内部の様子をみることなどでしか推測はできません。
こういった離職率データはあくまでも参考にした上で、ご自身のニーズにあった病院を探されるのが良いと思います。
7 まとめ
看護師の離職率は、10~11%と一般労働者と比較して決して高いとは言えません。
病床数の大きい病院、公立病院、地方の病院が離職率が低い傾向にあり、看護師の退職理由から、ワークライフバランスや通勤のしやすさ、転職の選択肢の少なさなどが要因として考えられました。離職率データは、平均的な傾向をみているため、離職率データはあくまでも参考として上で病院選びをすることをお勧めします。
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