看護師が患者からの暴力から開放されるために知るべきことと実行すべきこと
看護師として働いていて、患者さんの暴力にあったことありませんか?
その時、嫌な思いをしたと思いますが、その後しっかりと対策を立てることが出来ていますか?
しっかりと対策を立てて実行できていないとすれば、また暴力を受ける可能性はかなり高いと言えます。
今回は暴力をふるう患者さんの心理をしっかり分析するとともに、事前防止対策について記事にまとめたいと思います。
看護師として病院や介護施設などといった保健医療福祉施設に勤務していると、さまざまな患者さんや利用者さん、ご家族の方々と出会う機会が数多くあります。
医療スタッフの診断やアドバイスを受け入れ、積極的に治療に取り組む患者さんもいれば、看護師が対応に困ってしまう患者さんもいるでしょう。なかには看護師に対して暴力をふるう患者さんもおり、看護師が心や体を病んでしまうケースも少なくありません。
患者さんからの暴力を防ぐには、病院など施設側がきちんと体制を整えることが大切です。
しかし、個人レベルでも暴力のリスク要因を把握して適切な対策を講じれば、暴力を受けるリスクを低減することができます。看護師として健康的に働くためにも、一看護師として取り組める暴力対策を確認していきましょう!
目次
1 患者さんから受ける暴力とその実態
看護師が患者さんから受ける暴力には身体的な暴力だけでなく、暴言や脅迫、セクシャルハラスメントなども含まれます。日本看護学会論文集を探してみると、「過去1年間に患者暴力の被害経験がある病院職員は56.4%(内、看護職が67.5%)でした。(参照:患者からの病院職員に対する暴力の実態調査)
残念なことに医療スタッフ間での暴力・ハラスメントもありますが、特に身体的な暴力や精神的な攻撃、セクシャルハラスメントは患者さんやそのご家族から受けることが多いといわれています。
看護師が患者さんから暴力を受ける危険性は、従来は救急や精神科の領域で多いとされてきました。しかし、最近ではどの診療科でも患者さんから暴力を受ける事例が報告されるようになってきています。
また、看護師は患者さんと接する機会もほかの医療職よりも多いため、暴力を受けるおそれがある時間も長くなりがちです。
さらに、女性というだけで男性よりも暴力の矛先が向かってしまうリスクが高まります。
このように、看護師として勤務している以上、患者さんから暴力を受ける危険性があることを常に忘れないようにしなければなりません。
2 患者さんから看護師への暴力が発生するのはなぜ?暴力が発生する要因を探る
暴力が「病気のせいだからしかたない」と誤解されることがあります。しかし、病気であろうとなかろうと、暴力行為は許されるべきではありません。私たちは、患者さんが病気であることを理解し、患者さんの立場に立ってケアを提供しますが、それは看護師への暴力を容認する理由にはなりません。
では、患者さんから看護師への暴力はなぜ起こってしまうのでしょうか。
患者さんから看護師への暴力が発生する要因にはさまざまなものが考えられます。ここでは代表的なものを確認していきましょう。
2-1 患者さんの疾患や状態に起因する暴力
看護師が患者さんから暴力を受ける要因の1つとして、アルコール依存症などの精神疾患や認知症といった、患者さん自身の疾患によるものが挙げられます。
例えば、認知症の患者さんの場合「現状がうまく理解できず、理解できたとしてもすぐ忘れてしまう」という症状が多く見られます。「次に何が起こるかわからない」という不安から暴力的な行動・言動をしてしまう方もいるのです。
また、感情のコントロールを司る前頭葉がうまく機能せず、怒りっぽくなってしまう方もいます。
さらに「自分の能力が低下している」という自覚がある場合、自尊心を傷つけられる対応にカッとなってしまう方も多いようです。
このように、疾患によっては暴力が発生するリスクが高まる場合があります。
暴力リスクが高い疾患を抱える患者さんに対応する際には留意しておく必要があるでしょう。
2-2 患者さんを取り巻く環境に起因する暴力
患者さんの「自由に行動できない」「思ったようにストレスの発散ができない」という環境が暴力の引き金になってしまうことも少なくありません。
病院への入院・通院が必要な患者さんや介護施設への入所が認められた利用者さん、訪問看護の利用者さんは、それぞれ疾患やケガの内容、症状の重さが異なります。しかし、健康で普通の日常生活を送ることができていた頃と比べると自由度が低いという点は共通しているといえるでしょう。
また、「待合室の室温が高過ぎる」「他の患者さんのおしゃべりが気になる」「待ち時間が長い」など、病院などの施設では患者さんが不快に感じる出来事も起こりがちです。このような環境も患者さんから看護師への暴力を誘発する要因の1つとして挙げられます。
さらに、病院などの施設では、患者さんから暴力があっても病院側が見て見ぬふりをしたり諦めてしまったりする雰囲気があります。
「ストレスがたまりやすく、患者さんが暴力を振るっても厳しい対応をされにくい」といった医療施設特有の環境は、患者さんから看護師への暴力を助長するリスクを高めているといえるでしょう。(参照:日本看護協会 医療現場での暴力対策)
患者さんから看護師への暴力が発生するのは病院などの施設だけではありません。自宅への訪問看護の場合、密室になりやすく人目がつきにくいことから、患者さんが攻撃しやすくなることもあります。
患者さんと2人きりになるなど、他の人に助けを求めることが難しいケースもあるため注意が必要です。
2-3 日々の対応の仕方に起因する暴力
看護師は医療に関わる職業の中でも患者さんとふれ合う機会が非常に多い職業です。患者さんへの対応にはかなり配慮しているという方も多いと思いますが、患者さんによって受け取り方が異なることに注意が必要です。
例えば、同じ疾患・病態の患者さんでも必要とする説明の内容はそれぞれ異なります。一様に同じ説明をすると患者さんは「説明や確認が足りないのでは?」と感じ、医療スタッフに対し不信感をもってしまうことがあります。
また、患者さんのパーソナルスペースに不用意に踏み込むことも患者さんが不快に感じる対応の1つです。
多くの人にとっては気にならない対応でも、患者さんによってはストレスを感じてしまう対応となってしまうため、コミュニケーションの取り方を再確認しておくとよいでしょう。
一方で患者さんのプライドを傷つける対応など、看護師が攻撃的な対応を取ったため暴力行為に出たという患者さんもいます。
暴力は許されるものではなく、「自分の対応が悪かったのでは……」と自分を過度に責める必要はありませんが、日々の対応の仕方には常に注意しておきましょう。
2-4 医療行為に起因する暴力
看護師が行う看護ケアの中には、痛みを伴う処置やオムツ交換といった患者さんの尊厳に関わる処置もあるでしょう。
「痛い」「不快」という気持ちがストレスとなり、暴力に発展してしまうケースも多いようです。
また、「担当者によって処置が異なる」「担当者がコロコロ変わる」といった医療処置上の変化も患者さんにとってはストレスになる場合があります。
さらに、措置入院など患者さんに病識や入院する意思がない入院となった場合、入院という措置に不満を感じて医療者に暴力を振るうケースもあります。
このように、医療行為や入院に至るまでの経緯に患者さん自身が納得していないことも暴力が発生する要因の1つでしょう。
2-5 その他の要因に起因する暴力
暴力のきっかけとなる要因は他にも考えられます。例えば、検査結果の報告や病名の宣告などといった悪い知らせは患者さんを精神的に不安定にさせる恐れがあり、暴力へ発展してしまう危険性もあります。
また、患者さん自身が暴力的な行為で問題を解決したり利益を得たりした経験があると、不快な状況を打開するために暴力に訴える恐れがあります。
このように、患者さんから看護師への暴力を誘発する要因は多岐にわたります。
このようなリスクファクターについての理解を深め、組織全体でも看護師個人でも対策を考えていくことが大切です。
3 患者さんからの暴力を防止するためにできる日々の対策とは
患者さんから看護師への暴力が起こる要因には「患者さん自身の疾患」「患者さんを取り巻く環境」「看護師からの対応」など、さまざまなものがあります。
では、実際に患者さんからの暴力を防止するためにはどのような対策をとればよいのでしょうか。ここからは患者さんからの暴力を防止するためにできる日々の対策についてご紹介します。
3-1 暴力リスクが高い疾患や病態をしっかり理解する
病気だからといって暴力を振るってよいわけではありません。しかし、疾患によって暴力的な行動を起こしやすくなっている方もいることはきちんと把握しておく必要があります。
・統合失調症
・双極性障害
・認知症
・脳血管障害
・アルコール依存症
・薬物中毒
(参照:モンスターペイシェントに屈しない)
暴力を受けることを防ぐためには、暴力リスクが高いと考えられる疾患について知り、それぞれの患者さんの病態をしっかり理解することが大切です。
病気についてきちんと理解したうえで、患者さんの不安を和らげるような対応をとれるよう努めましょう。(参照:モンスターペイシェント」に屈しない 組織で取り組む 院内暴力への対応策)
3-2 看護ケアを行う場の環境を整える
看護ケアを行う場所の環境を整えることも重要です。室温など患者さんが不快に感じやすいポイントは、可能な限り患者さんとコミュニケーションを取り、それぞれの患者さんに適した条件を整えることを心がけましょう。
また、病気のときには周囲の音に敏感になりやすいことを考慮し、他の患者さんのおしゃべりの声が大き過ぎないか、医療スタッフが使用している機器や器具を動かす音はうるさく感じないか検討することも大切です。
勤務する職場の雰囲気を改善していくことも重要なポイントです。「暴力は許さない」という意識を職場の全員がもち、暴力を防止するシステムや暴力に関する相談をしやすい雰囲気をつくっていきましょう。
職場の環境や雰囲気はすぐに変えることは難しいかもしれません。しかし患者さんも看護師もストレスを感じにくい環境をつくることは、暴力が発生するリスクを下げることに繋がります。
1人1人が日々意識していれば、必ず改善すべきポイントが見えてきます。看護に関わるすべての人が快適に過ごせる環境を目指しましょう。
3-3 患者さんとのコミュニケーション技術を向上させる
看護師として働いている方は、患者さんに対して配慮ある対応を常に心がけていることでしょう。
しかし、患者さんによっては「説明が不十分」「きちんと確認してくれなかった」と感じることもあります。
このような認識の違いを防ぐ方法の1つとして、看護師向けのコミュニケーション研修を受けることが挙げられます。特に看護師になってそれほど年数が経っていない方は勉強になることが多いでしょう。
日本看護コーチ協会(参照リンク:http://www.nursecoach.or.jp/)や日総研(参照リンク:https://www.nissoken.com/s/j04.html)などでは医療職専門のコミュニケーション研修を実施しています。
また、一般的な接客研修やマナー研修なども参考になるでしょう。仕事で忙しく、なかなか研修に行けないというには、自宅でコミュニケーションについて学べる通信講座もあります。自分の都合に合わせて無理のない勉強方法を選びましょう。
また、自分ではうまく説明ができないという場合は先輩や上司に相談することをおすすめします。先輩や上司の対応を参考にして、コミュニケーション技術を高めていきましょう。
3-4 看護スキルを向上させる
患者さんにとって必要な看護ケアとはいえ、痛みを伴う処置は患者さんにとっては苦痛に感じるものです。
注射など多くの方が痛みを感じる処置をスムーズに行うために練習したり、褥瘡ができないようなケアを心がけたりと、日々の業務でスキルを向上させていきましょう。
また、がんなどの重い疾患の患者さんは、身体的な痛みとともに精神的な不安も抱えています。このような状態の患者さんを支えていくためにも、緩和ケアについて学ぶことをおすすめします。
緩和ケアは現在注目を集めている分野でもありますので、「緩和ケア研修」などとインターネットで検索すれば、緩和ケアに関する研修が多数出てきます。
自分の都合に合わせて研修に参加し、痛みを感じにくくさせる技術や処置時の不快な症状を和らげるテクニックを学びましょう。暴力対策だけでなく、自身のスキルアップにも繋がるため、ぜひ挑戦してみてください。
4 暴力行為をされたときの対処法
患者さんから身体的な暴力を受けたときには、どのようなときでも逃げ道を確保することを最優先しましょう。
部屋の奥や壁際に追い詰められないよう出入り口側に逃げるなど、瞬時に判断できるように常日頃からシミュレーションしておくとよいです。
先にご説明した通り患者さんが暴力を振るう要因は多岐にわたり、中には患者さん自身も制御しきれない場合も少なくありません。
したがって、患者さんから看護師への暴力が発生するリスクは残念ながらゼロにすることは難しいといえるでしょう。
そのため、暴力行為を予防する方法だけでなく、暴力行為をされたときにどのような対処法をとればよいかを知っておくことも大切です。
また、身体的暴力を受けた場合は助けを求めることも大切です。複数のスタッフを呼んで一緒に対応してもらいましょう。悪質な場合は警察に通報することも1つの方法です。
暴言やセクシャルハラスメントなど、精神的な暴力を受けたときには毅然とした対応を心がけましょう。相手が怒っていても落ち着いて冷静に対応し、不当な要求には応じないようにすることが大切です。
また、身体的な暴力を受けた場合と同様に、早い段階で応援を呼ぶようにしましょう。自分の味方を複数つくることで、相手のペースにのまれにくくなりますし、暴言の証人や証拠をつくることもできます。
暴力を受けてから時間が経った場合でも、先輩や上司などに報告することも重要です。暴力を働いた患者さんへの対応や暴力をさせないための対策を一緒に考えていけるでしょう。
5 まとめ:看護師が患者からの暴力に対処するための方法と注意点
患者さんから看護師への暴力は意外と多く、診療科目にかかわらず暴力を経験したことがある看護師が少なくありません。
患者さんが暴力を振るう要因には「疾患」「環境」「看護師の対応」などさまざまなものがあります。「疾患について理解する」「患者さんへの対応に気を付ける」といったことに日々取り組むことができれば、暴力を受けるリスクを少なくすることができるでしょう。
しかし、このような取り組みをしていても、暴力を受けるリスクを完全にゼロにすることは難しいと考えられます。
暴力を受けたときには逃げ道を確保し、毅然とした態度で対応するようにすることが大切です。また、決して1人だけで対応せず、先輩や上司など他のスタッフを呼んで複数人で対応することを心がけてください。
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