看護師に今後の需要と将来性はあるのか?具体的な根拠に基づき徹底検証!
近い将来に超高齢化社会を迎える日本では、看護師の需要はますます高まります。活躍の場も増えて、より専門的な知識を持った看護師が求められるようになるでしょう。
2020年から21年にかけては、コロナ禍で医療従事者の仕事がなにかと話題になりました。将来看護師を目指している方の中には「看護師という職業の将来性はどうなの?」と不安になっている方がいるかもしれません。
この記事では、世の中の動きやさまざまなデータをもとに、看護師の今後の需要と将来性についてわかりやすく解説しています。
目次
1 看護師の職業に将来性はあるのか?
日本は高齢化社会の到来によって、看護師の需要が増大し、養成機関の定員も増えつつあります。一方で看護師の離職率は相変わらず高く、看護師不足は今後ますます深刻になると予想されます。
1-1 高齢化社会により需要は高まっている
高齢化社会が進行しつつある日本では、看護師の需要が年々高まっています。
2020年現在で65歳以上の高齢者の割合は28.7%、75歳以上の後期高齢者は14.9%となっています。これが今後は次のように増加すると予測されています。
65歳以上 | 75歳以上 | 80歳以上 | 総人口 | |
2020年 | 28.7% | 14.9% | 9.2% | 1億2586万人 |
2025年 | 30.2% | 17.8% | 10.9% | 1億2284万人 |
2030年 | 31.2% | 19.2% | 13.2% | 1億1913万人 |
2035年 | 32.8% | 19.6% | 14.1% | 1億1522万人 |
2040年 | 35.3% | 20.2% | 14.2% | 1億1092万人 |
(参照:総務省統計局 1.高齢者の人口)
高齢者の増加は、当然ながら看護ニーズの増大を招き、とくに総人口とのかね合いで2030年には、日本の人口の3人に1人が高齢者になり、2035年には介護需要がピークを迎えると言われています。
認知症などで看護や介護を必要とする高齢者が増えると、医師のニーズも高まりますが、それよりも看護師のニーズはさらに高くなります。それは、日本では医師教育ではまだ認知機能障害や運動機能障害への対処が遅れており、看護師にゆだねられる部分が大きいからです。
1-2 看護師学校の入学定員は増加傾向にある
高齢化社会の進行に対応するために、国は看護師の育成・採用に力を入れており、看護師学校や養成所の定員は増加傾向にあります。
(引用:文部科学省 2019年度 看護系大学に係る基礎データ)
上図のように、2002年から2018年の看護師学校・養成所の定員は5万3800人から6万7881人に増えています。とくに4年制大学の看護師養成課程は、同期間に7040人から2万3670人と3倍以上になっています。
1-3 看護師の数は、なぜ不足気味なのか?
看護師が不足している理由は、せっかく資格を取っても看護師の仕事を止める人が多いからです。
看護師学校の定員増化を受けて、看護師国家試験の合格者も下記のように年々増加しています。
- 2005年 44,137人
- 2010年 47,346人
- 2015年 55,367人
- 2020年 58,514人
(参照:合格率89.2%!!第109回看護師国家試験の受験状況・合格率を徹底分析)
しかし、新たに看護師になる人が増えているにもかかわらず、何年も前から「看護師不足」の状態が続いています。1人の求職者に対して何件の求人があるかを示す有効求人倍率を見ると、2019年は全職種平均の1.6倍にくらべて看護師は2.46倍と高い水準でした。
看護師の求人倍率が高い(不足している)理由は、せっかく資格を持っているのに看護師を止めてしまう人が多いからです。「日本看護協会」が全国8,300の病院などを対象に行った調査では、2018年度の看護師の離職率は10.7%でした。10人の看護師のいる病院では毎年1人が辞めていることになります。
退職理由でもっとも多いのが「出産・育児のため」22.1%で次が「結婚のため」17.7%です。(厚生労働省2012年調査)つまり、看護師をしていると出産・育児や結婚は難しいという労働環境の悪さが、看護師不足を招く大きな理由になっているのです。(参照:看護師の離職率は約11%!データからみる看護師の離職率を徹底分析)
看護師ニーズが増大している中で、相変わらずの離職率の高さが続くとすると、今後看護師不足はますます深刻になると考えられます。
また、不足の割合は全国均一なわけではなく、地方の小規模施設などではとくに人材確保が難しい状況にあります。
2 看護師の活躍の場が広がっている
高齢化社会の進行によって、看護師の活躍が期待される場は、病院や診療所以外にも広がっています。
2-1 訪問看護ステーション
訪問看護ステーションは、2010年から事業所数が急増しています。
- 2010年 5,731事業所
- 2015年 8,745事業所
- 2020年 11,931事業所
(参照:一般社団法人全国訪問看護事業協会 令和2年度訪問看護ステーション数調査結果)
訪問看護は、自宅で療養する患者を看護師が訪問してケアをするサービスです。医師が作成する「訪問看護指示書」にもとづいて、療養指導や医療処置を行います。患者さんは高齢者だけでなく、乳幼児からの全世代が対象で、内科の患者以外に精神科などの患者さんも含まれます。
訪問看護ステーションは、近年推進されている「地域包括ケア」の重要な柱の1つで、自宅でのケアを望む高齢者や重症患者が増える中で、その意義が増しつつあります。
※地域包括ケアとは、医療や介護が必要な状態になっても、できるだけ住み 慣れた地域で、能力に応じ自立した生活を続けることができるように環境を整える、という考え方です。
2-2 入居型介護保険施設
高齢者増加に伴い入居型介護保険施設の需要が高まっていることは言うまでもありません。そこでも看護師はなくてはならない役割を担っています。
入居型の介護保険施設には、介護老人福祉施設が7,891 施設、介護老人保健施設が4,322 施設、介護療養型医療施設が1,196施設あります。(2020年厚生労働省調べ)
介護施設では、介護福祉士や作業療法士、理学療法士が活躍していますが、看護師は入居している高齢者のバイタルチェックなどの健康管理、投薬管理などを担当します。新型コロナウィルスなど感染症が流行しているときは、感染予防の中心的な役割を担当します。
高齢の入居者は施設で最期を迎えることも多いので、本人や家族の精神的ケアも期待されており、今後ますますその重要性が増すと考えられます。
2-3 地域の保健センター
保健センターは市区町村が設置する施設で、保健師、看護師、栄養士が配置され、地域住民の健康に関する活動を行っています。
具体的な業務としては、子どもの予防接種などの母子保健サービス、生活習慣病の予防など住民の健康教育、健康相談などがあります。職業構成、年齢構成などの地域の特性によって、保健センターごとに提供する保健サービスが異なります。
これまでの「病院での看護」から「地域包括ケア」という考え方に変わりつつある中で、地域の保健センターの役割は、今後さらに重要性が増すと考えられます。
2-4 一般企業の健康管理室
経済産業省は、2020年代に企業が取り組むべきテーマとして、IТ化による経営改革と共にあげているのが「健康経営」です。健康経営とはわかりやすく言うと、「会社は従業員の健康づくりや心のケアに力を入れることで、経営効率を高めることができる」という考え方です。
経産省は健康経営への取り組みを「ホワイト500」「ブライト500」という認定制度を設けて推奨していますが、この取り組みの中心となるのが企業の健康管理室です。
従業員が50名を超えた企業には、「衛生委員会の設置」や「産業医の選任」、「ストレスチェックの実施」、「定期健康診断結果報告書の提出」が義務づけられおり、これらの業務に対応するために大企業では保健師や看護師が常駐する健康管理室を設けています。今後「健康経営」の考え方が企業に浸透するとともに、健康管理室の看護師の需要が増えていくと考えられます。
3 看護師に専門的な知識が求められている
先ほど述べたように、看護学校の定員が増えつつある中でも、4年制大学の定員がこの15年ほどで約3倍に急増しています。これは、数だけではなくより高度な(専門的な)知識とスキルを持った看護師が求められていることを示しています。
看護師により専門的な知識が求められるようになった背景には、地方の医師不足を補うという側面と共に、病院以外のさまざまな場面での看護ケアの重要性が増すにしたがって、看護師に患者が抱える疾患についてのより深い理解が求められるようになったからだと言えます。
看護師はとかくその仕事のハードさが強調されがちですが、看護師の需要の増加や社会的役割についての理解が進むとともに、労働環境の改善も期待できます。将来看護師を目指している方には、このような社会の要請に応えられる専門的な知識と職業意識を持つ看護師を目指していただきたいと思います。
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